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【完結済】ラジオの裏側で  作者: ユズ(『ラジ裏』修正版・順次更新中)
第1章:Re:union ― 再会 ―

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2/39

1゜

※2025/11/03より、順次修正版に差し替え中です。

 文章表現や心理描写を中心に調整しており、大きな流れの変更はありません。

 少しずつ読みやすい形へ整えていきますので、のんびり見守っていただけたら嬉しいです。

「横川先輩、教えてほしいことがあるんですけど!」


技術部のドアを勢いよく開け、フロアを見渡す。

…柏木技術部長だけか。心の中で大きく溜息をついた。


「またか、西條。今井さんに付いて仕事を覚えてるんだろ。質問は今井さんにしろ」


大きなため息を吐き、呆れた顔をしつつも、顎でマスタールームを差している。

なんだかんだ教えてくれるあたり優しい……のか?いや、多分面倒ごとはさっさと行けって感じなんだろうな。



俺、西條蒼は今年の四月に地元のラジオ局に入社。研修期間が終わり七月に編成部に配属された新人で、今は先輩に付いて仕事を覚えている最中だ。


編成部に来て三ヶ月。今週からは進行表作りの仕事も始まった。指導担当の今井さんから一通り説明とマニュアルは貰ったものの、いまいち分からないんだよな。だから、詳しい人に話を聞いた方が早いと思って―― 一階下にある技術部のフロアまできたというわけ。


ラジオ局は、市内中心部の25階建てビルの上三フロアを使っている。

23階が技術部とマスタールーム、ラックルームに編集室。

24階には編成部や営業部、会議室、そして収録スタジオが二つ。

最上階の25階にはオンエアスタジオが二つと、サロンスペース、レコード室、報道部、それにニューススタジオ。


俺の職場はその24階で、フロアにはいつもオンエアが流れてる。

普段は24階と25階にいることが多いんだけど、技術部は23階。どうしても大学の先輩だった横川に会いたくて――無理やり用事を作っては、よく出入りしてる。柏木部長に睨まれるくらいにね。


技術部から続くマスタールームを覗くと、進行表のチェックをしている先輩が見えた。

声を掛けるのも邪魔になるし……まぁ、勝手に入って行くか。


空いている椅子を引き寄せて先輩の向かいに陣取る。一瞬目が合ったけど、すぐに視線は進行表へ戻った。


――終わるまで相手にしてもらえそうもないな。


仕方ない。でも、先輩をじっと見ていられるのは嬉しいかも。




「なんか入り口で叫んでなかったか?」


キリのいいところまでチェックしたのか、ペンを置いてこっちを向いた先輩の顔は”しょうがないな”って言ってるようだった。

そんな顔をされると――やっぱり甘えたくなる。


「進行表のことを教えてもらいたくて。そうしたら、ちょうど先輩がチェックをしてたので見てました」


「明日のデータが差し替えになったから急いでチェックしないといけないんだ。だからまだ時間がかかるぞ」


終わったら内線で連絡するって言ってくれたけど、ゆっくり先輩を見ていられるんだからそのまま待っていることにした。

残りのページ数からして、あと五分もかからないだろうし。


「暇なのか?」と聞かれたが、新人の俺にしかできない仕事なんてないので大丈夫。


それよりも仕事をしてる先輩を見ている方が何倍も有意義だと思う。

だって、大学の頃から先輩のことが好きだったんだから。


でも……まさか、同じ職場になるなんて。



今思えば、大学時代は先輩を忘れようとして、だいぶ無茶してたよな。

卒業してもう会えないんだから……と、女の子と付き合ってみたり、友達と夜遅くまで遊んでみたり。


ぽっかりと空いた隙間を埋めようと無理をしてたのがバカみたいだ。


まぁ、そのあと就職先で再会するなんて。そんなの想像できるわけないわ……。


入社後の研修で初めて技術部に行った時、「なんで先輩がいるんですか?」と思わず声に出してたっけ。

で、驚いたのと同時に、好きだった気持ちも戻って来ちゃった……と。


忘れていた感情が本人を目の前にした瞬間に甦えるって……俺って単純なのかな。


それとも、本当は忘れてなかったのか。


いや、無理やり蓋をしていたのが、衝撃で外れただけかもな。


でも、あの時の先輩の笑顔、少しだけ遠くに感じた。





せっかく同じ職場なんだから、一緒に仕事がしいたいと思って技術部を希望した。

けど、一技(第一級陸上無線技術士)を持っていないと仕事にならないって言われ、結局は編成部に決まった。


技術部はフロアが違うから、なにか理由を探して行かない限り顔を見ることすら難しい。

だから今日も適当な理由をつけて会いに来たんだけど……。


先輩はずっとサッカーをやっていただけあって、体は適度に引き締まっている。

身長もかなり高くて、いつも少し見上げて話すくらいだ。

スッキリと整えられた黒髪にキリッとした目、それを際立たせるようなフレームレスの眼鏡。

一見、隙がないくらいキッチリとしてるんだけど、たまに優しく笑ってくれる時は――そのギャップにドキッとさせられる。


人当たりも良くて、誰にでも分け隔てなく接するから、大学ではいつもみんなの中心にいた。

でも、誰かと付き合ってるって噂は一度も聞いたことがなくて……不思議な人だなって思うのと同時に、もしかしたら――俺にもチャンスがあるかも、なんて考えてた時期もあったな。


そんなふうに昔のことを思い出していたら、先輩は進行表を片付けていた。いつの間にか終わってたみたい。




「で、進行表の何が聞きたいんだ?上にマニュアルあるだろ」


先輩が運行管理端末の前に置いてある今日の進行表を持って戻ってきた。


「今井さんから説明を受けてマニュアルも一通り見たんですけど……。大体は分かったつもりです。でも、進行表を作る時って気をつけた方がいいことってありますか?」


昨日、自分でも作ってみたんだけど、やっぱりよく分からなかったんだよな。

正しいと思って作ってるから、どこが間違ってるのかすら分からなくて。

『これ、本当に必要な作業か?』って、ブツブツ言いながら自己チェックしてたくらいだ。


「なるほどな……。じゃあ、一つだけ、絶対に覚えておいてほしいことがある」


そう言って、先輩は進行表の日付をトントンと指で叩いた。


「基本的に当日のデータ変更はできない。どうしても変更しないといけない時はマスターで対応するということ」


「どうしてですか?」


「編成部が作るデータは一部を書き換えてもその日一日分のデータ全てが更新されてしまう。でも、マスターで書き換えるデータは変えた部分しか更新されない」


思わず首を傾げたら、先輩に笑われた。

だって、違いは分かるけど――それがどうして駄目なのかが全く分からないんだ。


「一日分のデータを更新してしまうと、作業時刻が何時であってもその日の朝八時に戻ってしまうんだ。昼間の番組をやってるのにデータだけ朝八時に戻ったら、どうなるか――分かるだろ?」


確かに。それは絶対にやったら駄目だって俺でも分かる。


「だから当日のデータ変更は原則禁止。もし、変更するならマスター対応になる。そうなると後日、柏木部長から各部へクレームがいくことになる。本当に危険なことだからな。まぁ、事前に連絡票が出ていれば別だけど」


柏木部長の顔が思い浮かんで、思わず身震いした。そんな俺の反応を見てか、笑って「西條はするなよ」と釘を刺された。



「他に何か聞きたいことはあるか?」


そう言われ、進行表の一部分を指差した。


「この列に書いてあるアルファベットニ文字の意味を聞きたかったんです」


今井さんにも説明してもらって、マニュアルも読んだ。でも――正直、全然ピンとこなかったんだよな。

なんとなく、”何かの略なんだろうな”ってことは分かったんだけど。


「あぁ、音声のスイッチャー制御か。これは言葉で説明しただけだと分かりづらいな。図で説明した方が早いか」


先輩は近くにあったメモ用紙を取って、さらさらといくつか図を書いていく。


「とりあえずよく使う制御だけ教えるから。まず“CC”――カットアウト・カットインの略だ。CMの前後に使うことが多い。スタジオの音声をカットアウトしてCMをカットインさせる」


先輩が描いた図をペンでなぞりながら丁寧に説明してくれる。

綺麗になぞっているペンの動きで、“やっぱり几帳面だよな”って、つい関係ないことを考えてしまう。


「あっ、そもそもスタジオの音声とCM、別のところから出てるって分かってるよな?」


それは研修の時に聞いてたから、大きく頷いた。


「分かってるならいい。続けるぞ。次は“FC”」


「“FC”はもしかしてフェードアウト・カットインですか?」


先輩が意外そうな顔でこっちを向いたけど、すぐに進行表に視線が落ちる。

でも、口元が少し笑っていた気がする。それだけで、なんか褒められた気になって――さらに説明を聞こうと進行表を覗き込む。


「で、“DS”――ディゾルブは音声がクロスするんだ。ラジオ局でDSを使ってるのは少ないんじゃないかな。うちもそんなに多用はしないけどな。他には――」


「お疲れ様です」


説明を聞いてたら入り口の方から声がした。誰かマスターに入ってきたらしい。


「あれ?西條また来てたのか。上で今井さんが探してたぞ」


現れたのは番組ミキサーをしていて先輩の幼馴染でもある久保陸也だった。


久保さんは先輩とは対照的で、いかにも体育会系――といった感じのガッシリ体型。身長も先輩より少し高くて、一言で言うとワイルド系イケメンだ。


明るい茶髪とノリのいい言動から軽い印象を受けるが、仕事は真面目で相手のこともよく見ている。細かいところにまで気がつくタイプ。


局内の女性の間では横川派と久保派がいるとかいないとか――そんな噂を聞いたな……。


「上で、明日の俺の担当分のデータ変更があったって聞いたから確認しに来たんだけど。その時に今井さんが西條を探してたっぽいから戻ったほうがいいんじゃないか?」


久保さんは明日の進行表を棚から取り出しながら、さらっと怖いことを言ってきた。

多分、今井さんには行き先がバレているとは思うけど――そろそろ戻らないと怒られるな。


「先輩、ありがとうございました。分からないところがあったらまた来ます!」


慌てて編成部のフロアへ戻った。

*マスタールーム

主調整室、一般的には「マスター」と呼ばれます。

番組の運行管理、オンエアやCM送出の監視などを行なっており、放送は全てマスターを経由して送出されます。

緊急時の対応もマスターで行うことが多いです。


*ラックルーム

ほとんどの局(多分…)がマスタールームに隣接しており、放送に関わる機材が収められている場所。

冷房がかなり効いてるので夏は涼しい(笑)



***

お読みいただきありがとうございます。

本作は今後、修正版(白版)と完全版(黒版)の2本立てで再構成していく予定です。

白版は現在の世界線をベースに、黒版はより深く掘り下げた物語として展開予定。

どうぞ、これからもお付き合いください。

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