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ラジオの裏側で(完結済)  作者: ユズ
ラジオの裏側で
2/39

1゜

毎週金曜日の19時に更新予定です。

よろしくお願いします!

「横川先輩、教えて欲しいことがあるんですけど!」


技術部のドアを勢いよく開けてフロアを見渡すが、居たのは柏木技術部長1人だった。


「またか、西條。今井さんに付いて仕事教わってるんだから質問は今井さんにしたらいいだろう」


大きなため息を吐き、呆れた顔をしつつも目線はマスタールームの方を差していた。



俺、西條蒼は今年4月に地元ラジオ局に入社。研修期間が終わり7月に編成部に配属された新人で、今は先輩に付いて仕事を覚えている最中だ。


配属から3ヶ月経ち、今週からは進行表制作の仕事も手伝っている。担当である今井からの説明とマニュアルだけではいまいち理解できない部分があり、詳しい人に話を聞いた方が早いと1階下にある技術部のフロアまできたというわけ。


ラジオ局は市内中心部の25階建てビルの23階から25階まで3フロアを使用していて、23階が技術部、マスタールーム、ラックルーム、編集室、24階が技術部以外の部と会議室、収録スタジオ2つ、25階がオンエアスタジオ2つ、サロンスペース、レコード室、報道部とニューススタジオになっている。


技術部は1階下にあるものの、大学の先輩でもあった横川優斗がいるので用事がなくても足が向いてしまう。


技術部から続きのマスタールームを覗くと、横川がちょうど進行表のチェックをしていた。

声を掛けるのも邪魔になるし、勝手に入って行って行こう。

空いている椅子を引っ張ってきて横に陣取ると、一瞬こっちを見てくれた。でも、そのまま作業を続けるているって事は、終わるまで相手にしてもらえそうもない。

仕方ない、大人しく待ってるか。


「なんか入り口で教えて欲しいことがあるって叫んでなかったか?」


キリのいい所までチェックしたのか、ペンを置いてこっちを向いてくれた。


「進行表のことで教えてもらいたくて来たんですけど、ちょうど先輩がチェックをしてたので見てました」


「明日の進行表が差し替えになったから急いでチェックしないといけないんだ。だからまだ時間がかかるぞ」


終わったら内線で連絡すると言われたがそのまま待ってることに。

残りのページ数から、あと5分もしたら終わるだろう。


「暇なのか?」と聞かれたが、新人の西條にしか出来ない仕事など無いので問題ない。

それよりも仕事をしてる横川を見てる方が何倍も有意義だ。

だって、大学の頃から横川のことが好きだったんだから。


まさか同じ職場になるなんて…。


今思えば、横川が大学を卒業した時点で忘れようと女の子と付き合ったり友達と遊んだり、色々と隙間を埋めるように無理して遊んでたのがバカみたいだ。


まぁ、その後就職先で再会するなんて想像できないんだから、忘れるのに必死だったのはしょうがない。


入社後の研修で技術部に行った時に横川がいて驚きのあまり「なんでいるんですか?」と思わず声に出てしまった。

それと同時に、好きだった感情も戻って来ちゃったんだよね。


でも、すっかり忘れていた感情が本人を目の前にした瞬間に甦ってくるって、自分が単純に出来てるのか、それとも本当は忘れてなかったのか…。



どうせ同じ職場ならずっと一緒にいられる技術部がいいと希望を出したけど、一技(第一級陸上無線技術士)を持っていないと仕事にならないと言われ通らなかったんだよなー。


技術部はフロアが違う事もあって、自分から理由を付けて行かない限り顔を見る事すら稀だ。

だから今日も理由を付けて会いに来たというわけ。



横川はもともとサッカーをやっていただけあって、体は適度に筋肉質で引き締まっていて180センチはある高身長。スッキリと整えられた黒髪にキリッとした目をしていて、フレームレスの眼鏡が理知的な横川をさらにクールに見せている。


人当たりも良く、誰にでも分け隔てなく接していた事もあり大学の頃は凄くモテていた。

でも、誰かと付き合っていると言った噂は全く聞かなかったから不思議なんだよな…とか考えていたらいつの間にか進行表のチェックが終わっていたらしい。

奥にある棚に明日の進行表を片付けているところだった。


「で、進行表の何が聞きたいんだ?上にマニュアルあるだろ」


横川が運行管理端末の前にある今日の進行表を持って隣に戻ってきた。


「今井さんから説明を受けてマニュアルも一通り見たので大体は分かるんですけど、進行表を作る上での注意点って何かありますか?」


昨日、進行表を作っていて疑問に思った事だった。

 

自分で作ってるから間違ってるところも分からないし、何に注意したらいいのかも分からず「これ、必要な作業か?」って思いながら作成後の自己チェックしてだんだよな…。


「なるほどな…。じゃあ、絶対に覚えておかないといけない事が1つだけ。基本的に当日のデータ変更はしないと言うこと。どうしても変更しないといけない時はマスターで対応すること」


「どうしてですか?」


「編成部が作るデータは一部を書き換えてもその日1日分のデータ全てが更新されるけどマスターで書き換えるデータは変えた部分しか更新されない」


違いは分かるがなぜ駄目なのかが全く分からない。無意識に首を傾げていたのか、横川が目の前で苦笑している。


「1日分のデータを入れ替えてしまうと作業時刻が何時であれデータがその日の朝8時に戻ってしまう。昼間の番組をやってるのにデータだけ朝に戻ってしまうとどうなるか分かるだろ?

だから当日のデータ変更は原則しない、するとしてもマスター対応になるから後日、柏木部長から各部へクレームがいくことになる。事前に連絡票が出ていれば別だけどな」


「だから西條はするなよ」と釘を刺された。


「他に何か聞きたいことはあるか?」


そう言われ進行表の一部分を指差した。


「この列に書いてあるアルファベット2文字の意味を聞きたいんでした」


今井にも説明を聞いてマニュアルも読んだが、全く理解できなかった部分だ。


「音声のスイッチャー制御か。これは聞いただけでは分からないから図に書いて説明した方が分かりやすいな」


近くにあったメモ用紙を取って何個か図を書いていてくれた。


「とりあえずよく使う制御だけ教えるから。まずは“CC”これはカットアウト・カットインのCCでCMの前後に使用することが多い。スタジオの音声をカットアウトしてCMをカットインさせる」


横川が自身で描いた図をなぞりながら説明してくれた。


「あっ、そもそもスタジオの音声とCM、別のところから出ているってのは分かってるよな?」


それは研修の時に説明を受けたので知識としては知っていたので大きく頷いた。


「分かってるならそのまま説明を続けるが、次は…」


「“FC”はもしかしてフェードアウト・カットインですか?」


横川を見ると良く分かったなという顔をしていた。


「で、“DS”はディゾルブで音声がクロスするんだ。ラジオ局でDSを使用してるのは少ないんじゃないかな。うちもそんなに多様はしないけど使うから。他には…」


続きを説明して貰おうと思った時に誰かがマスターに入って来た。


「お疲れ様です。あれ?西條また来てるのか。上で今井さんが探してたぞ」


そう教えてくれたのは番組ミキサーをしていて横川の幼馴染の久保陸也だ。


久保は横川とは対照的にいかにも体育会系ですと言おった感じのガッシリ体型で身長も少し高いワイルド系イケメンだ。明るい茶髪とノリのいい言動から軽い印象を受けるが、仕事に真面目で相手のこともよく見ていて細かいところにまで気がつく。


局内の女性の間では横川派と久保派がいるとかいないとか、そんな噂を聞いたことが…。


「上で明日、俺が担当する番組のデータ変更があったって聞いたから確認しに来たんだけど、その時に今井さんが探してるのが見えたから西條は戻ったほうがいいんじゃないか?」


多分、今井には行き先がバレているとは思うがそろそろ戻らないと怒られそうだ。


「先輩、ありがとうございました。分からなくなったらまた来ます」


慌てて編成部のフロアへ戻った。

*マスタールーム

主調整室、一般的には「マスター」と呼ばれます。

番組の運行管理、オンエアやCM送出の監視などを行なっており、放送は全てマスターを経由して送出されます。

緊急時の対応もマスターで行うことが多いです。


*ラックルーム

ほとんどの局(多分…)がマスタールームに隣接しており、放送に関わる機材が収められている場所。

冷房がかなり効いてるので夏は涼しい(笑)

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