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ラジオの裏側で(完結済)  作者: ユズ
ラジオの裏側で
18/39

14゜

地震の話が出てきます。

8ヶ月前とはいえ大地震があり、あまり触れるのもどうなのかな…と思い、最小限に留めました。

『スタジオ機材更新について』


出社してメールを確認すると、技術部から全社員、全外部スタッフ宛のメールが届いていた。


『5月の第4週目から、マスターで新しいスタジオ機材の説明会を予定しております。

1回あたりの参加人数を把握したいので、参加希望日を返信してください。

社員は個別に返信、外部スタッフは会社ごとに返信をお願いします。

予定日は……』


メールの内容をざっと確認して、横川が忙しかったのはこれの事かと思い当たった。


以前、技術へ頻繁に顔を出していた時、南に横川の邪魔をするなと言われたんだったな…。

今思えば懐かしい思い出だ。


機材更新が終わるまでは横川と顔を合わせる機会が増えるのかと思うと、どういう顔をしたらいいのか分からずデスクに突っ伏した。


「出社早々、なんでそんなにやる気がないのよ」


声がした方へ顔を向けると、今井が「おはよう」と出社してきたところだった。


「出張お疲れ様でした」


「そんなことより、この前電話もらった時はびっくりしたけどもう大丈夫なの?」


「はい、大丈夫です。心配おかけしてすみませんでした」


西條がそう言うと、心配そうな表情をしていた今井が安心したように笑った。


「で、大丈夫ならなんでそんなにやる気ないのよ…」


「今、技術からのメールを見て、また新しいことを覚えないといけないんだなーって思ったら…」


「あ、PON出しの更新ね。でも、前とそこまでは変わらないって聞いたけど」


とりあえず、本当の理由は言えないけど半分は本心だから間違ってはない…。


「でも、説明会の日程ってかなり少ないですよね?PON出しなんて放送に直結する機材なのに大丈夫なんですか?」


メールを見ると設定日は全部で4日間。午前、午後の1日2回、計8回だ。

しかも、何回参加してもいいと書いてあった。それだけの回数で全員説明を受けられるのか疑問に思ったが、技術がそう設定したと言うことは大丈夫なんだろうな。


「その4日間はメーカーの担当者が直接説明してくれる日なんだよ」


「え?」


声がした方へ顔を向けると南が立っていた。

たまたま編成部に用事があって来ていたところに、西條と今井の会話が耳に入ったのだろう。


「この日程で出られない場合はどうしたらいいんですか?」


「その場合は横川か俺が個別に対応するから言ってくれ」


なるべくメーカーさんの日に出てくれるとありがたい…そう言って南は技術フロアへ戻って行った。


ということは、メーカーの日程で参加すれば横川をずっと見ていなくても大丈夫って事か。

そう思い、スケジューラーを確認した。



「おはよう」


挨拶をしながらスタジオに入ると、瀬田とミキサーの沙希が番組前の打ち合わせをしていた。


「おはよう」


「おはようございます」


持っていたPCをテーブルに置いて、向かいで行われている打ち合わせを見ていた。


進行表とQシートを照らし合わせてCM時刻と内容の確認、パブリシティの有無、使用素材の確認など…。

瀬田はこういう事を手を抜かずにやるから事故もないんだよな。


実際、やってるフリをするディレクターもいる。

放送事故を起こすとどれだけ大変かわかってるはずなのに。


「西條、今日の時間指定のパブリシティなんだけど、BGM指定ってあるけどサーバーに入ってないんだよ。確認してもらっていい?」


「え?あ、了解」


「元原これな」


ぼんやりとしていたら返事が遅れた。

瀬田が見せてくれた原稿を見ると確かにBGM指定と書いてある。

スマホを取り出して担当営業に電話をかけた。



「消し忘れで、BGMはなんでもいいって」


「分かった。沙希ちゃん、じゃあ、パブBGM1で」


「わかりました」


「では、本番よろしくお願いします」


どうやら打ち合わせは終わったらしい。


「ねぇねぇ、沙希ちゃん。どうやったら失恋って忘れられると思う?こういうのって女の子の方が得意そうだと思って」


「え?西條さん、失恋したんですか?」


「そう、だからどうやったら忘れられるのかなって思って。あと、慰めて…」


言うだけ言って、テーブルにグダーっと伏せた。

向かいで瀬田が顰めっ面をしたのが一瞬見えたが無視を決め込んだ。


「新しい恋をすると忘れるって言いますよね。あとは没頭できる趣味とか?」


沙希が首を傾げながら答えているが、どうやら本人もピンと来ていないようで、聞いた話ですけど…と言って苦笑している。


「新しい恋に趣味か…どっちも無理な気しかしない…」


とりあえずは仕事に逃げるか…。大きくため息を吐いた。


生放送に立ち会いながら、持ち込んだPCで他の仕事をしていたとき。

スマートウォッチに通知が来た。


『震度5弱 N県××市』


聴取エリアじゃないけど5弱は速報を入れる対象になる。


「瀬田、N県で震度5弱だって。速報入れるから。とりあえず報道に確認に行ってくる。共同の原稿持ってくるから」


「分かった」


そう言ってスタジオを飛び出し、報道部にある共同通信の端末を確認しようとしたら、今日の報道担当者が速報をプリントアウトしているところだった。


「今持って行こうと思ってたところ」


「ありがとうございます。詳細出たらまたお願いします」


原稿を受け取って急いでスタジオに戻った。


「どこで入れられる?」


瀬田に原稿を渡すと、すぐさま赤ペンで必要な部分にラインを引いて行く。


「この曲の後CMに行くから、その前に入れる」


原稿を持ってブースに行き、DJに原稿を渡してすぐに出てきた。

たぶん、西條が原稿を取りに行ってる間に打ち合わせをしたのだろう。


「後30で曲終わるんで素でいきます。2回繰り返しで。その後ジングル打たずにそのままCM行きます」


瀬田がトークバックでDJに指示を出し、それを聞いていたミキサーの沙希も返事をする。


原稿を見ながら読み間違えていないか確認し、とりあえず無事に速報を入れられてホッとした。


「詳細が出たらもう一度情報入れるから。被害状況にもよるけど、とりあえずはそれで終わりかな」


「了解。ただ、この後コーナー入るから当分先になるけど」


「それはしょうがない。聴取エリアじゃないからコーナーは飛ばせない」


「後20で戻ってきます。戻ってきたらTM出します」


沙希の声で西條と瀬田は話を止めた。

「速報を入れたから事故をした」では元も子もない。


その後、コーナー明けに詳細な震度と津波の有無を入れた。




「お疲れ様、無事終わったな。対応ありがとう」


「うん。でも、大した被害ないみたいでよかった」


番組が終わって片付けもせず、さっきの速報の話から別の話に切り替わり、ダラダラとしていた。


「そういえば瀬田はPON出しの説明会っていつ出る?」


「いつ出るって、初日の夕方の回しか無理だろ。それ以外は番組前の打ち合わせ中か、番組中で出られないんだから」


ふと思い出して、どうせなら瀬田と同じ日にしようと聞いたが、確かに聞くまでもなかったな。


「じゃあ、俺もその日にしよう。メール返信しておかないと…」


目の前で呆れた顔をしてる瀬田がいるが、そんなのは無視だ。


「西條…お前、一人で横川さんと同じ空間にいるのが耐えられないだけだろ」


「そう言うわけじゃないけど…」


「けど?」


「一緒に出れば、後で分からなかったところを教えてもらえるだろ」


「分からなかったら横川さんに聞け。担当者なんだから」


露骨に嫌そうな顔をして大きなため息を吐いている。


「でも、瀬田が俺を見捨てるはずないって分かってるから」


多分ドヤ顔をしていたのだと思うが、目の前で瀬田が呆れた顔をし、これ以上会話にならないと溜息を吐いて片付けを始めていた。

本編で「共同の原稿」と出てきますが、共同通信の原稿のことです。


共同通信と契約している放送局はニュースを配信してもらって、その原稿を使用しています。

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