SB2
SB1と同様に優斗視点です。
途中表現をぼかした部分がありますので察していただければ…。
あと短くてすみません…
『今日飲みに行かないか?』
技術部で事務仕事をしていたら陸也からスマホにメッセージが屆いた。
いつも直接誘いにくるので珍しいなと思いつつ、『20時ぐらいなら大丈夫』と返信した。
『それなら兄貴がいる方のバーで待ち合わせな』
『了解』
待ち合わせ場所からどうやら今日は込み入った話なんだろうなと思い、それを聞くために目の前の仕事を再開した。
「いらっしゃいませ」
半地下にあるお店の重厚な木製のドアを開けると陸也の兄である拓海が迎えてくれた。
このバーは拓海が経営しているお店のうちの一つで、自らバーテンダーとしてカウンターにも立っている。陸也と静かに飲みたい時はオーセンティックバーのこっちへ来ることが多い。
程よく照明が落とされ、落ち著いた音楽が流れる店内はまさに大人の空間だ。
陸也は定位置となっているカウンターの一番端の席で飲んでいた。
「遅くなってごめん」
「いいよ、兄貴の店ならいくらでも時間潰せるから」
「いつか拓海さんに怒られるぞ」
そう苦笑しながら自分もお酒を頼んだ。
「で、今日この店に呼び出したってことは何か込み入った話なんだろ?」
「まぁな…。瀬田からメッセージで西條が仕事を休んだ。理由を聞いても教えてくれない。って送られてきて、原因は優斗だろうなと思って」
久保にそう言われた瞬間、溜息を吐いてしまった。
思い当たるも何も、原因は絶対に自分だと思ったからだ。
「昨日、あれから西條と話をしたんだろ?優斗と西條に話をさせるために俺と瀬田が仕組んで早めに切り上げたんだから」
それを聞いて腑に落ちた。急に時間を気にして撤収準備をするからおかしいなとは思っていた。そういうことだったのか…。
「話をしたというか、西條が一方的に俺への想いを話してきたからイラついて無理やり…」
さすがにここでやったとは言葉に出せないので濁したが陸也には伝わったようだ。
「お前っ…」
ガタッと音がして陸也が立ち上がった。
「陸也、声が大きい」
大きな声を出した陸也を慌てて嗜め、拓海に軽く頭を下げて謝った。
静かなバーで大声を出すのはマナー違反だ。
陸也が椅子に座り直し、こちらを見て一瞬怒った顔をしたが、悲しそうな顔をし肩を落とした。
「お前は西條のことを好きになってると思ったんだけど俺の勘違いだったか」
そう言い、陸也がグラスを煽った。
「どこをどう見てそう思ったのか分からないが、俺は他人から一途な愛情を向けられるのは無理なんだよ。知ってるだろ」
苦々しい顔をしている自覚はあった。あの出来事はもう過去のことだと思っていても、いまだに何かの拍子に記憶や感情の表面に顔を出してくる。
「誰か一人を…というのはこの先も考えられない。というか、一途に向けられる感情が怖いんだよ」
「おかわり、どうされますか?」
重苦しい空気を察したのか、拓海が絶妙なタイミングで声をかけてきてくれた。
多分、カウンターの中にいる拓海には俺たちの会話が聞こえている。
それに、拓海は優斗の過去の出来事を知っていて心配してくれている内の一人だ。
「拓海さん、いつもありがとうございます」
「私は飲み物のおかわりをお伺いしただけですよ」
笑顔でそう言われ、少しだけ心が軽くなった。
陸也が手元のグラスに視線を落とし、少し寂しそうな声で話し出した。
「最近の優斗を見てると西條のことに関する時だけは感情が表に出てきてるんだよ。今まで何があってもイライラしてるところなんて見なかったのに、西條に対してだけは違う。
それに、今までだったら後輩だからという理由だけでミスして凹んでる相手を飲みに誘うなんてこともなかった。
優斗が自覚してないだけで、心の中では西條のことが気になってしょうがないんだよ」
そうなんだろうか…。
確かに最近イライラすることが増えたが、自分では仕事が多くてなかなか片付かないことに対してだと思っていた。
でも、他人から、特に陸也から見ると西條に対しての事でイライラしてるように見えるんだな。
「それに、この前の公開生放送の現場に行く時の車内がどんな感じだったか覚えてるか?」
「え?どんなって…。特に何も?」
それほど前の話では無いから頑張って思い出そうとするが、どう記憶を辿っても何事もなく現場に着いたこと以外思い出せない。
「あの時は優斗が運転で俺が助手席、西條が後部座席。で、俺は後ろを見ながら西條にちょっかいかけて楽しんでたの覚えてるか?」
「あぁ、思い出した」
確かに陸也と西條がすごく楽しそうでずっと笑っていた。でも、それと西條に対してのイライラと何が関係してるのかが分からない。
「その時の優斗、俺が西條にちょっかいをかけだしたぐらいから凄くイライラしだしたんだよ」
「え?」
そう言われても全く自覚がない。呆けた顔をして陸也を見るが、頷かれただけだった。
「西條は俺のちょっかいと、優斗のイライラの板挟みになってどんどん精神削られて疲弊していくし。車内がかなりカオスな状態で俺は面白かったけどな」
陸也がニヤッと笑ったと思ったら、ふぅーっと長い息を吐き出した。
「つまり俺が何を言いたいかっていうと、優斗は知らないうちに西條のことが気になっていて、他人が西條と仲良くしてるのを見てやきもちを焼いてたんだよ」
「そんなことは…」
動揺した自分の心をタイミングよく表現するように手元のグラスの氷がカランっと音を立てた。
そんな自分を誤魔化したくてグラスを煽ると度数の高いお酒が喉をチリチリと焼けるように流れていった。
「他人を信用できないのはしょうがない。今まで苦しんできたんだから。西條の気持ちに応えろとも言わない。でも、ちゃんと向き合うことだけはしてやれ。俺は優斗がどんな選択をしても変わらず隣にいるから」
陸也がそう言いながら右手を肩にポンと乗せてきた。
「ありがとう」