9゜
R15をタグ付けしているとはいえ、どこまで書いていいのか迷ってカットしたり表現を変えたりしたものの…。
キスシーンがありますので、不快な方はブラバお願いします。
これはアウトかも…?
「で?まだ何か俺に聞いて欲しいことがあるんだ」
お互いずっと無言のままだったがいつの間にか横川の自宅のリビングまで来てしまった。
重苦しい空気を破って先に言葉を発したのは、不機嫌だという空気を隠しもしない横川の方だった。
西條はどう答えていいのか迷って俯いた。何を話すのか考えながらここまで来たが、いくら考えても答えが纏まらなかったからだ。
多分、返事を間違えたらもう話を聞いてもらえない、それだけは分かっている。
でも、いつまでも黙ったままではいられない。覚悟を決めて横川に向き合った。
「俺は先輩のことが好きです」
「またその話か…」
横川がため息を吐いた。
「先輩、お願いですから最後まで聞いてもらってもいいですか…」
ゆっくりと、そしてこれで最後だという覚悟を声に乗せて、柔らかい笑み意識して、横川に伝わるようにと願いながら。
その空気を感じ取ったのか、横川がこっちを見てくれた。
西條は一度深呼吸をしてドキドキする自分を落ち着かせた。
「俺は大学の頃から先輩が好きでした。先輩が大学を卒業した時に諦めようと決めたんですが、局で再会したらそんなことを忘れて好きだという気持ちしか湧いてこなくなりました。
先輩の顔が見たくて無理やり用事を作って会いに行ったこともあります。
そんな事を何度もしていたら久保さんに気付かれてしまいましたが…。
そして久保さんに、先輩は過去にあった出来事で心の一部が欠けてるって教えてもらいました。」
それを聞いて横川が苦しそうな顔をしたのを西條は見逃さなかった。
それでも最後まで自分の気持ちを伝えないと。
「俺はどんな先輩でも好きなんです。たとえ欠けてる部分があったとしても、少しでも埋まるように側にいたいんです。駄目ですか?」
言い終わって横川を見ると苦しそうな顔をしたままだった。どれだけ気持ちを込めても伝わらなかったのかと思うと悲しくなった。
諦めて帰ろうと思った時…
「俺は西條に好きと言ってもらえるような良い人じゃない。他人から好意を向けられると嫌悪感しか湧かないんだ。だから身体だけの相手しかいらない。西條にそれは耐えられないだろ」
そう言いきった横川に何を言ったらいいのか分からなくて気付いたら抱きしめていた。
「お前に同情して欲しいわけじゃ無いんだよ」
そう言われた瞬間、ソファーに押し倒され荒々しくキスをされた。
「んんっ…」
自分の身に何が起こったのか分からず、拒もうとした時にはもう遅かった。
わずかな隙間から横川の舌が入り込んできて口の中を犯される。舌で粘膜を侵され、背筋にゾクッとした快感が走り悶えた。
「…っ」
何度も舌を吸われ、クチュ、クチュと淫らな音が静かな部屋に響く。頭がぼーっとしてきたとき、唇を噛まれたと思ったら息苦しさから解放された。
そこでようやく横川の唇が離れたことに気付いた。
「…どう…して…。どうして…先輩が、そんな辛そうな顔をするんですか…」
心が締め付けられ、自然と片手が横川の頬に伸びていた。
頬に触れられたことで横川がハッとした顔をし、西條の両手を頭の上でまとめて押さえつけてきた。
「俺のことを傷つけて先輩の気が済むのなら…何をされてもいいです」
西條の方が泣きそうだった。もしかしたら泣いていたのかもしれない。
「うっ…」
気付いたらベッドに寝かされていて、起きあがろうとしたが腰に痛みが走って起き上がれなかった。
きちんと閉まっていなかったカーテンの合間から月明かりが差し込んで、部屋の中がぼんやりと明るい。
思考もぼんやりしていて、倦怠感がすごい。さっきまで横川に抱かれていたんだということを思い出し、痛む身体を無理やり起こし隣を見るが横川はいなかった。
抱かれる前の横川の顔を思い出し、どうしても顔を見たいといてもたってもいられなくなり慌てて服を着ようとした時だった。
ふと、身体が綺麗に拭かれていることに気付いた。ひたすら抱かれて西條の身体はグチャグチャだった…。
横川が身体を綺麗に拭いてベッドに寝かせてくれたんだとわかり、心が締め付けられた。
「なんで最後にそんな優しくするんだよ…俺に嫌われたいんじゃないのかよ…」
泣きそうになるのをなんとか堪え寝室を出ると、リビングのソファーで横川が寝ていた。
横川を見てしまうと諦めたいのに諦めきれない…。
手を伸ばせば触れられる距離にいるのに、どうしてこんなにも遠いんだろう…。
「先輩、最後だから…許して…」
寝ている横川の頬にキスをした。
思わずこぼれ落ちそうになった涙を上を向いて堪えると、横川を起こさないように静かに部屋を後にした。
大通りに出てタクシーに乗り込むとポツポツと雨が降りだし、窓ガラスに雨粒が当たっては流れていく。それを眺めているといつの間にか涙が零れた。
『今井さんすみません、体調悪くて熱があるので休ませてください…』
『大丈夫?声ガラガラだけど。ちゃんと病院に行くのよ』
そう言って今井は心配してくれたが、なんだか申し訳ないと思いつつも、どうしても出社する気分になれなくてズル休みをしてしまった。
幸い?なのか、横川に散々抱かれて喘がされ、声がガラガラだったので誤魔化すのは簡単だった。
ご飯を食べる気力もなくて、ひたすらベッドの上でぼーっとしていたら瀬田からメッセージが来た。
『今井さんから、体調不良で休みって聞いたけど本当か? 昨日、横川さんと話をしたんだろ? 何かあった?』
瀬田にはバレてるな…まぁ、昨日の流れからしたら分かるか…。
『本当に体調不良だよ』
横川に抱き潰されたせいで腰は痛いし声はガラガラ。あながち間違っていない。
多分、納得はしてくれないだろうけど、今はいくら瀬田でも話す気にはなれなかった。
これ以上何も聞かれたくないと、スマホの電源を落とした。
「明日は出社しないとマズいよな…」
独り言を呟きながら、再度ベッドへ沈み込んだ。
明日も休んだらどんどん行きたくなくなるし、それに瀬田が乗り込んできそうだ。
気分的には少し落ち着いてきたのに、瀬田に色々と聞かれたらまた感情が不安定になって大泣きしそうだ。
とりあえずもう一眠りしよう。そう決めて目を閉じた。
お腹が空いて目が覚めたら夕方だった。窓から差し込んだ西陽が部屋の一部をオレンジ色に染めていて、それを眺めている自分を不思議に感じた。
「きれい…」
思わず涙が零れたが、悲しい気持ちは一切なかった。
西陽で温まった濃密な空気が部屋を満たし、なんだか時間すら止まっている感じがして、心がすごく凪いだ。
朝起きた時には空腹すら感じなくて、ただただ、どんよりとした気分だったのにな。
とにかく寝たのが良かったのかもしれない。
そして何より、お腹が空いて目覚めるというのが自分自身でも驚いた。
西條はストレスで胃腸の動きが止まり、空腹を感じなくなるタイプだからだ。
「よしっ、大丈夫」
両手で自分の頬をパンっと叩いて気合いを入れ、ベッドから出た。




