17話・王妃がこのままにしておくはずがない
「陛下はあの屑王の血を引いているよ。初めのうちはそれでも王妃の機嫌取りをしていたようだが、その裏では女の尻を追いかけ回していた。現在、ご執心なのがキャリーとかいう女だ」
「何者なの?」
「コナー伯爵の末娘で、元は王妃付きの女官だった。王妃にいつも強く詰られていたそうで、それを見咎めたのが陛下だったらしい。そこから仲が良くなっていたそうだ」
「王妃の自業自得ね。このことを王妃さまは?」
「知らないはずだ」
陛下は都合の悪いことは、王妃に隠しているとノルベールは言った。それには納得のいかないものを感じた。あの王妃が知らないままでいる?
「王妃にも耳がいるのでしょう? 本当にバレてないのかしら?」
「さあな」
俺達の預かり知らぬところだろう? と、ノルベールは言ったけど、もしかしたら王妃は王妃で自分の犬を飼っていそうな気がする。
「ノル。あなたの異世界召喚がもしも、王妃さまにバレていたらどうなると思う?」
「蒼天教をガチガチに信仰している女だからな。俺の役職を罷免して牢屋送りにでもしかねないな」
「王妃さまに今回の件、本当にバレてないと思う?」
「まさか──?」
「だって陛下は邪魔してないのでしょう? だったら疑わしいのは誰になる? あなたの術を邪魔するくらいの権威のある人は?」
「ごめん、ユノ。今からちょっと、研究室に戻って来る」
「いってらっしゃい」
ノルベールは何かに気が付いたようだ。私は王妃が邪魔したのではないかと思っている。直接にではないにしろ、自分の子飼いの者を扱ったのかも知れない。王家から自分に宛がわれている耳にもバレないように。
私の知るエリサとは、お飾りで満足しているような女ではないはずだ。夫の浮気を知らない? 自分に都合の悪いことを隠されている? そんな状況に甘んじているはずがない。
漫画でも、現実でも彼女は強い女だ。令嬢だった頃から王妃になることを切望し、一度は王子の婚約者候補だった私に辞退しろと勧めてきた彼女が、このままでいるはずもない。
慌てて王宮の研究室に戻って行く夫の背を見送っていると、心の中がざわめいて落ち着かない気にさせられた。




