13話・フィルマンにようやく春が来た
フィルマンの手腕は素晴らしい。その頃には先代の陛下が亡くなり、フィルマンとは腹違いの第2王子が陛下となっていたが、その陛下も目を見張るほどの業績だと言う。
領地の方は落ち着いたし、そろそろ彼も33歳になる。婚期を逃してはいるが、誰か良い女性がいたら身を固めた方がいいのではと、私は一人ヤキモキしていた。私の周辺で使用人を通してだけど、知り合いの
若い令嬢達がいないわけでもない。本人が望むなら誰か紹介しようかと思っていた。
しかし、ノルベールから止められた。こういうのは本人の問題だからと。本人が結婚を望んでいないかも知れない。
現に15年前にフィルマンが起こした婚約解消の件は、本人に結婚願望がなく、王位にも興味がなかったから蹴ったようなものだと言われ、結婚を望んでいない本人に、結婚相手を紹介すると言うのは、相手に結婚しろと急かしているようで逆に失礼かも知れないと思い直して止めた。
彼の幸せは彼が決めることだ。私はフィルマンの幸せとは、誰かと結婚することと思い込んでいたようだ。自分達のように、彼にも相思相愛の相手が出来たら良いと望みながら、それを押付けてしまっていたのだ。
それではフィルマンに失礼だ。私は少し思い上がっていたらしい。世の中、結婚する以外にも幸せはある。そこに気が付いて反省していたら王宮に泊まり込んでいたノルベールが、興奮して王宮から帰ってきた。
彼は研究に没頭すると、寝食を忘れてしまうぐらいのめり込むことがある。今回はこことは違う世界へ干渉する術を見つけたとかで、その術を構成する為、仕事場に泊まり込むから宜しくと。事後で伝えられてしばらくの間、私は彼の替えの衣類や食事を作って運んでいた。
その夫の帰宅。汗臭い上に、髭も剃っていない。髪も乱れたままで抱きついてくる。
「ユノ、ユノ──!」
「ちょっ。どうしたの? ノル」
玄関先で抱きつかれたので、されるがままになっていると、彼が満面の笑みを浮かべていた。
「フィルが……、あいつにようやく春が来た」
ノルベールとは結婚して共に暮らしていく中で、私も転生者であることは伝えてあった。私にも前世の記憶があると知り、彼は大喜びしていた。しかも私達の前世は、同じ日本人。奇遇にしても揃いすぎる。
さすがに転生場所はお互い地方の方で違ったけど、同じ時代で転生するのも珍しい。なかなかない確率だろう。
「フィルのお相手は?」
「異世界人だ。聞いて驚け。何と、日本人だ」
「うそぉ」
こんな偶然ってあるの? 前世の私達と繋がり深い日本。現在、その日本に住んでいる人?




