12話・フィルマンの手腕
「フィルマンは、あの地にペアーを根付かせたいと考えているんです。ヴィオラ夫人」
「あの地にペアーを?」
ノルベールが我が事のように言う。お祖母さまは驚いていた。あの草原地帯を耕して畑にして果実を育てようというのだ。どれだけ手間暇がかかるのかと思っているのだろう。
漫画ではペアーフィールドは、ペアーが名産として有名でそこから領地の名前がついたと説明があったくらいだ。ペアーは洋梨の形をしていた。
現実でもフィルマンが、ペアーを根付かせたいと考えるのは当然のように思えた。
「私はとても良いと思うわ。でも、どうしてペアーを植えることを考えたの?」
「あの地は今でこそ、王家のお狩り場として誰もが知る地だけど、昔はペアーの木が群生していたらしい。そこからペアーフィールドという地名が付いたと、以前読んだ書に書いてあった」
なるほど。フィルマンは優秀な男だ。目の付け所が違う。感心していると、お祖母さまはそう上手く行けば良いけどと不安そうだ。
「いきなりそのような果実を選ばなくとも、他の葡萄とかの方が良いのでは?」
サクラメントではハーブが有名だが、その一方で葡萄も育てている。葡萄はジャムや、ワインなどに加工して売り出している。ペアーフィールドは、隣の領地なので気候もこちらとそう変わりないし、葡萄ならば生育に問題ないのでは?と、言いたげだった。
でも、フィルマンはその考えを変える気はないらしい。ノルベールもできる限り彼の支援をしていくつもりだと話すと、お祖母さまは力になりましょうと最後には約束していた。
それからも1年、2年と月日だけが過ぎ、フィルマンは領地改革に没頭していく。その間に一足先にノルベールと私は結婚した。ノルベールが23歳、私が20歳の時だ。
フィルマンはがむしゃらに仕事に取り組んでいた。その意欲的な姿勢は、必死過ぎていて体を壊さないかと心配した。でも、成果は徐々に現れ始め、10年も経つとペアーフィールド産の見事なペアーが、国内のあちらこちらで姿を見せ始めた。
彼が領地に来て15年目には、とうとうペアーは国内生産第一位を誇る収穫高となっていた。あの何も無かった領地を、国内で尤も富んだ領地へと生まれ変わらせたのだ。




