11話・フィルマンの事情
数日は彼の事を思うと、自分だけノルベールと結びついてしまった申し訳なさに、罪悪感を覚えたりしていたが、次に届いたノルベールの手紙で、あまり自分のせいだと思い込むなよ。と、書かれていて、フィルマンの婚約解消には、彼の思惑があったことだと記されていた。
フィルマンは王太子になりたくなかった。そのやり方は褒められたものではないけど。とも書かれてもいた。
今回、ノルベールの手紙で、初めて知った事実だけど、実はフィルマンは、陛下に蔑ろにされて育ち、離宮に追いやられて暮らしていたそうだ。何か王宮内で用がある時だけ、王宮に呼び出されていたとあった。
陛下は早くから第2王子を自分の後継者にすべく育ててきたが、いまいち進歩が見られないせいで10歳になる頃には、利発で将来が楽しみだと、使用人の間で噂されるようになってきたフィルマンに目を付け、一度は放置した息子を後継者にと言い出したそうだ。そこにずっとフィルマンは不満を抱いていて、ノルベールの前でも愚痴っていたようだ。
──屑親父だよなぁ。
ノルベールのその一言に、激しく同意したくなる。あの陛下は傲慢だ。フィルマンが逆らいたくなるのも分かる。
ノルベールは両親が王宮に仕える、魔術師という特別な環境で育ってきたけれど、本来なら王子さまと気軽に会える身分ではなかったらしい。それを王妃さまの口利きで、離宮にいるフィルマンの、遊び相手として求められたらしかった。
そのノルベールは、手紙の最後の方で自分達は王妃さまによって友達として出会ったけど、あいつが王宮を追われたからって付き合いを切ることはしない。あいつの為に出来ることを手伝ってやりたいと思っている。と、書かれていた。
その手紙で、わたしも思った。フィルマンのこれからに色々と手を貸してあげようと。もしかしたら私に出来る何かお手伝いがあるかも知れない。
そう思っていた矢先に、フィルマンとノルベールがサクラメント屋敷を訪ねて来た。
「久しぶりです。ヴィオラ夫人、ユノ嬢」
「久しぶりですね。フィルマンさま、ノルくん」
お祖母さまは、以前と変わらない態度でフィルマンとノルベールを迎えた。私も元気な二人に会えて嬉しかった。二人を応接間に通すと、お祖母さまは訊ねた。
「ご領主さま就任おめでとうございます。フィルマンさま。就任してみて如何でしたか? 戸惑うこともあったのでは?」
「ありがとうございます。ヴィオラ夫人。色々と問題がありましたが少しずつ、着手することに楽しみが出て来ました」
お祖母さまが慣れない環境で大変ではないかと聞いたのに対し、彼はやりがいがあると答えていた。優秀な彼の事だ。あの地をそのままにしておくはずがない。




