10話・第1王子の転落
ノルベールから届いた手紙の内容に驚かされた。
フィルマンがエリサ嬢との婚約解消を突然言いだし、陛下を怒らせたことで、王宮を追われることになったことが事細かに書かれていた。
そして彼はこれから、ペアーフィールドの一領主としてその地を治めて行くことを命ぜられたとか。
そのペアーフィールドだけど、前世の記憶で知る漫画のストーリーでは、ヒロインと結ばれた後に与えられた地で、ここで新婚生活を送ることになって終わっていた。
でも、漫画の世界では見事なペアーが豊作の地で、甘い新婚生活を送る結末にはなっていたのに、現実のペアーフィールドは、王家所有のお狩り場だった所で何も無い。だだっ広い地が広がるだけの寂しい草原地帯だ。
王子として育って来た彼が、その地を治めることになった? 突然の知らせに頭の中が真っ白になった。
「どうしたの? ユノ。ノルくんの手紙に何が書かれていたの?」
「それは……」
ノルベールから手紙が届き、浮かれていた私が見る間に顔色が悪くなるのを、共に執務室で微笑ましく見守ってくれていたお祖母さまは気になったのだろう。聞いてくる。
「実は──」
そこへ王宮からの知らせが入ったらしく、魔道具の鏡がピッピッと鳴り出した。王宮魔道師長のノルベールが開発した、王宮からの連絡用鏡だ。地方に住む領主はすぐに王宮に駆けつける事が出来ないので、緊急連絡などはこの鏡を通して伝えられる。相手の姿を見ながら話が出来るもので、私の前世で言えばテレビ電話のような物。その前にお祖母さまが立った。
すると王宮の文官長らしき人物が現れて時候の挨拶を簡単に延べると、ところでと語り出した。
「お知らせ致します。第1王子は一身上の都合により王位継承権が剥奪となり、ペアーフィールドの領主に任ぜられました。それにより王太子は、第2王子のフルバード殿下となり、フルバード殿下の婚約者はグリモード公爵令嬢に決まりました。よって婚礼式は一年後に行われます。詳細は新たに紙面にて……」
その知らせを聞いて、私はさらに衝撃を受けた。漫画のストーリーの中では、フィルマンは何があっても王太子のままだった。その座は揺るがなかった。
ノルベールの手紙の中でも、王太子のことには触れてなかったし、そこまで彼が追い込まれることになろうとは思ってもみなかった。こんなにも早急に王太子の交代劇が行われるなんて、背後に何かあったとしか思えない。
もしかしたら娘を何としても王太子妃にしたいグリモード公爵が、陛下に第2王子との婚姻をねじ込んだ可能性があるのかも知れない。
でも、こうやって王宮文官長を通して、各地方領主まで公布されてしまったのなら、フィルマンはもう一領主として暮らしていくしかない。王子として返り咲くことはほど遠い。
魔法具の通信を打ち切ったお祖母さまが、私の異変に気が付いた。
「あなた、大丈夫? 顔色が悪いわよ」
「何でもないわ。お祖母さま」
そう言いながらも、私は彼の境遇に同情する事しか出来なかった。




