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8話・彼女ではなかった




「そんな冷たい。あたし達は運命の相手なのに……」


「それはきみが勝手に思い込んでいることだろう?」


「違う。現実を受け止めて。あたしとあんたは結ばれるべき運命なの」




 フィルマンは彼女と話しているだけで、頭が痛くなってきた。




「医者を呼んでくれ。どうも言動がおかしい。正常じゃない。何かの障害が疑われる」


「はい」


「えっ? お医者さま? あたし、体は何ともないよ。お医者さまを呼ぶほどのことでもないから。ねぇ、話聞いている? 大丈夫だってば」


「煩くて叶わない。さっさと客間に連れて行ってくれ」




 フィルマンに頭が悪いのか? と、指摘されているのにも気が付かず、サクラは自分の体のことをフィルマンが真剣に心配してくれていると思い込んでいるようだ。 


メアは話が通じなさそうな少女と、呆れる主人の顔を見て、同情するような目を向けた。












「フィル。どうだ? 彼女と会えたのだろう?」




 夕刻。転移ドアを開けて、ノルベールが訪れた。期待に彼の顔は輝いていた。フィルマンが喜んでいると疑いもしない顔。フィルマンは仰々しくため息をついた。




「残念だが彼女ではなかった。偽者だった」


「偽者? そんな嘘だろう……?」


「厄介なことに、その偽者女は僕のことを運命の相手だと信じ込んでいる」




 フィルマンは、彼女が現れてからのことをノルベールに詳しく話した。




「彼女は記憶喪失を装っているみたいだが、それにしては話していてボロが出てくる。医者に見せたところ別に脳に障害があるわけでもなさそうだ。しかし、どこでサクラの情報を仕入れてきたのか……、薄気味悪い」


「サクラについては、俺達しか知らない事だからな。陛下にも、彼女の名前や特徴などは明かしてないってのに。一体、誰の仕業だ? 誰かが俺達の話を盗み聞きしていたということか。例の奴らはどうだ?」


「彼らには特に動きはない。通常の業務を黙々と行っているようだから、彼らではないことは確かだ」




 この古城には、間諜が入り込んでいた。その者は特定しているが、目的をあぶり出すために泳がせている最中だった。そんな最中に、現れた自称サクラ。何者かの意図があるとしか考えられなかった。




「そうか。じゃあ、あと考えられるとしたら、陛下の耳か」


「陛下の耳? どうして? 陛下は召喚術を認められたのだろう? 主人の許可なしに彼らは動けないはず」


「あれらもさ、一枚板ではないようだ。陛下の思惑とは別として動く部隊もあるらしい」




 今回、自分達の召喚術を何者かが知ったことについて、ノルベールは陛下の耳=間諜が怪しいと言った。納得の行かないフィルマンに、ノルベールがもう一人、耳に指示を出せる存在があるだろうと言う。




「未だに彼女は僕のことを恨んで?」


「さあな。でも、自分が望む未来をあの女は手に入れたんだ。おまえを恨む筋合いはない」


「それはそうだが……」




「それにしてもよく偽者だと気が付いたな?」


「それは見れば分かるよ。本物のサクラと同じなのは黒髪だけ。話し口調はこの国の平民独特のものだ。誰かにサクラのなりすましを頼まれたに違いない。礼儀知らずだし、思い込みが激しくて、話していると色々と疲れる」




「ご苦労さま。自白剤使うか?」


「最終手段では必要となるかも知れない。それよりも気にかかるのは本物のサクラの行方だ。勝手の知らないこの世界に来て心細いだろうに。どこにいるのやら」


「本物のサクラのことは心配するな。俺が絶対に捜し出す。おまえは本物のサクラが見つけるまで、せいぜい偽者サクラを油断させて、後ろにいる人間を吐かせろよ」


「ああ。今度ばかりは腹が立って仕方ない」




 フィルマンは苛立ちも露わに席を立つ。ノルベールはその彼の肩を叩いた。




「ほどほどにな」





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