5話・嘘つきにされました
「あなたのお祖母さまは、サクラメントの聖女と呼ばれている御方だけど、あなたはたかが一領主の孫娘でしかないでしょう? それなのに殿下の婚約者候補なんて、田舎領主の孫娘でしかないあなたには役不足だわ。辞退なさい」
「その通りですね。私はずっと辞退を申し上げているのですけれど、陛下が許して下さらないのです。仮にも私の身には王家の血が流れているので」
しらっとして言うと、彼女は目を釣り上げた。
「王家を侮辱するにもほどがあるわ。あなたのお母さまは王女だったとでも言うつもり? あなたはとんでもない嘘つきね」
性悪な女だわと、エリサ嬢は言い、手にした扇子で私を打ち付けようとした。
「止めろっ」
そこへノルベールが入って来て、彼女の手首を掴む。
「いま、何をしようとしていた?」
「離しなさい。わたくしを誰だと思っているの?」
彼は彼女をねめ付けた。きっと睨み返す彼女は彼の背後にいる人を見て青ざめた。ノルベールは、フィルマンを伴っていた。
「僕も何をしていたのか聞きたいな? グリモード公爵令嬢?」
「いえ。わたくしは何も……」
「きみは知らないのかい? 公爵から話は聞いてないのかな? ここにいるユノはね、僕の祖父の兄弟の孫だ。はとこに当たる」
「そっ……! 失礼致しました」
フィルマンの説明を聞いて、青ざめるエリサ嬢。フィルマンの説明で、ようやく理解したようだ。事の重大さに今更、気が付いたように深く頭を下げてきた。でも、内心煮えくりかえっていることだろう。プライドが妙に高い人だから。
「今回は見逃すけど、2度目はないよ。ああ。このことでユノを逆恨みするのは止めて欲しいかな。もしも、そんなことをすれば公爵に責任を取ってもらうことになる」
「……」
フィルマンに射すくめられて、エリサ嬢は何も言い返せないでいた。フィルマンは美麗な見た目とは違って結構、腹黒な方だ。怒らせたら絶対にやばい奴。
だって微笑みながら口にしたのは、今度、何かしたら公爵もろとも潰すぞ。と、言っているようなものだ。それ脅迫だよね?
「もう出て行って構わないよ。グリモード公爵令嬢」
「は、はい……」
フィルマンは笑みを浮かべていたけど、それはゾッとするほど怖いものがあった。エリサ嬢は何か伝わるものがあったのだろう。その場から逃げ出すように退出して行った。




