3話・3年の年の差は大きい
フィルマン王子が深い闇を抱えているというのは、後になって思い出した。初対面からしてどっぷり友人枠で交流のある私は、彼との接し方に頭を悩ませていた。
下手な事を言って関心は持たれたくないし、かといって敵対視されたなら命の保証はない。
今のところ、彼とは恋愛のれの字もない。その為、王宮が私を婚約者候補として引き止めてくるが、お祖母さまも私が王子のもとに嫁ぐのを良しと思ってないので、近いうちに解消されそうだ。私としては一刻も早く身ぎれいになって、ノルベールと交流を深めたいと考えている。
それというのも、王子やノルベールが15歳で社交界デビューを果たすと、群がる女性陣達が現れ始めたのだ。
この国では王侯や貴族達は、15歳で社交界デビューを果たして大人と見なされる。私は気が気でなかった。皆、高位貴族令嬢でそれぞれ綺麗なお嬢さま達だ。私は王子やノルベールとは3歳年下。デビューまであと3年はある。
綺麗なご令嬢に囲まれる二人を直視するのは辛く、今までは楽しみだった年に一回の登城する日が、辛く思われるようになってきた。
──3年の年の差は大きい。
しみじみそう思うようになった。向こうは成人しているけど、自分はまだ12歳。周囲から見れば大人と子供。精神年齢は彼らよりも高いはずなのに、気持ちは12歳の体に合わせて引きずられた。
それでも王妃さまや、王宮に長年仕えている使用人達は優しかった。7歳から登城している私を見慣れていることもあり、気さくに声をかけてくれる。
年に一回の登城を楽しみにしていた私を知る女官らには、ノルベール達となかなか交流できなくなって、ため息ばかりついていたのを見られたのか、「元気出して下さいね」と、クッキーの差し入れをもらったりしたし、
そのことを女官から耳にしたのか、料理長からはショートケーキの差し入れがあったり、お爺ちゃん庭師には、王子やノルベールと庭の中を駆けずり回って、後で王妃さまやお祖母さまにお目玉を食らったことを覚えられていて、
「あのお転婆嬢ちゃんが女神さまのようにお綺麗になられた」
と、言って薔薇の花をもらったりした。女神さまのようにというのはさすがに言い過ぎだと思う。でも、お爺ちゃん庭師なりの慰めだよね? 笑って「ほれ」と、差し出した、しわくちゃの手に促されて受け取ってしまった。
しかし、その使用人達と私の交流を見ていた誰かが、噂したのだろう。変な尾ひれが付いたのか、王宮では誰それ? と、言うくらい私のことが年々神聖化されていったようだ。そのせいなのか、私の顔色を窺う令嬢達が増えたような気がする。それに加えて妬む人も出て来たけど。
その私も、社交界デビューを迎えることとなった。ようやく15歳。これまでずっとノルベールとの文通は続いていた。有り難いことに父親のいない私を気遣ってくれたのか、社交界デビューにはエスコートするよと手紙に書かれていたので、王宮入りをした時、浮かれていた。




