2話・わたしの知る王子はやばい人
「わたしのことはユノとよんで」
「ユノか。よろしくな。ユノはフィルのおよめさんこうほとして、きたんじゃないのか?」
「そうだけど。べつにのぞんでいないわ」
お見合い相手のいる前で、正直に話すのは失礼かと思ったけど、私はノルベールと親しくなりたくて仕方なかった。前世の記憶を取り戻す前の私も、王子さまと結婚なんて望んでいなかったし、出来ることなら亡くなった母のように、想い合った相手と結婚したいと思っていた。
「そうか。ぼくとおなじだね」
王子もポツリと言った。もしかして拒否されて傷ついた? と、思ったけど、ノルベールに「さんにん、なかよくやろうぜ」と、肩を組まれて笑顔になっていた。
それから王宮に数日滞在となり、部屋を訪ねて来た王子やノルベールと仲良く遊んだ。その時には優しい王妃さまが同行していて、あの傲慢な王がいなくてホッとした。王妃さまはお祖母さまと気が合うようで、何度もお部屋を訪れては、王子やノルベールと会わせてくれていた。
王宮の滞在中は楽しすぎて、二人と別れるのは寂しくて泣いてしまったくらいだ。「またあえるから」と、慰める王子の隣で「なくなよ」と、ノルベールが焦っていたのが可笑しかった。
それでも別れ際には、ノルベールが「てがみをかくよ」と言ってくれて、そこから二人の文通が始まった。
ノルベールに手紙を書くときは、どんな事を書こうかと頭を悩ませ、返事が来るまで気がそぞろになった。返事が届いた時には嬉しすぎてその場で小躍りして、お祖母さまには呆れられた。
手紙には自分の身の回りのことや、親友フィルマン王子のことが書かれていた。ノルベールは、甲斐甲斐しく王子の世話を焼いているようで、二人の仲の良さが感じられる文面には焼きもちを妬いた。その場にいられない自分が寂しかった。
それでも年に一回、王宮に登城する機会があり、その度に二人と再会した。彼らは年々、あどけない顔立ちが凜々しくなり、一緒にいる私の気が引けるくらいに、王宮の若い女官達の視線を集めていた。
「ユノはますます綺麗になっていくな」
ノルベールにそう言われる度に内心、それはあなたですと返したくなる。その様子を傍から見ているフィルマン王子は意味深に微笑むから怖い。
小説の中のフィルマン王子は結構、やばい人だった。だから今生では、彼にはなるべく近づかないようにしようと思っていても、周囲の思惑や、私の推しであるノルベールの親友という立ち位置から、いつもノルベールの側にいる。




