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エピローグ


 久しぶりに彼女の夢の中に入り込めた。今まで色々あったせいか、なかなか彼女の夢と出会う事が出来なかった。

 彼女は僕と目が合うと、朗らかに微笑んだ。


「フィル。お疲れさま」


「ありがとう。サクラ」



 彼女は夢の中で出会った僕にも労りの姿勢を見せる。時々、不安になる。彼女は僕のことを信頼しすぎのような気がして。僕の裏の顔を彼女は知らない。


「どうしたの?」


「いや。幸せ過ぎて怖くなる。何か悩みは無い?」


「そうねぇ」


 彼女は顔を曇らせた。


「こちらの世界に召喚されてしまったから、元の世界にはもう戻れないのよね?」



 彼女の言葉に、金槌で頭を殴られたような衝撃が走った。彼女は元の世界で家族と仲良く暮らしていた。きっとその家族との別れが辛いのだろう。



「わたしがいなくなった後、借りていたアパートはどうなったのかな? 誰か解約してくれたかな? ああ、どうしよう? あの部屋、散らかっているようね? 誰かにあの部屋を見られたら軽く死ねる」


「死んでもらっては困るよ。サクラ」


「あ、そうそう。お姉ちゃんや、お父さん達、急にわたしがいなくなって心配しているよね? どうしよう」


 頭を抱え込むサクラの肩を抱くと、落ち着いたように聞いてきた。



「その辺はノルベールさんが、どうにかしてくれているかな?」


「大丈夫だよ。きみがいなくなった後の世界は、きみは国外に嫁いでなかなか帰って来られないことになっていると、ノルが言っていたから。きみが里帰りしたくなったら、僕も一緒について行くよ。きみの家族にご挨拶したいからね」


「ありがとう。フィル。でも、こっちの世界に召喚されたら、二度と元の世界に戻れないんじゃなかったの? 本当に大丈夫?」



 彼女の顔はまだ、疑っていた。仕方なしにある事を教えてあげる事にした。本当はそこに気が付くまで知らん顔をして、彼女が自分だけに依存するように仕向けたかったのだけど、彼女の不安な顔を見ていたら黙っていられなくなった。



「実はね、きみを召喚してから気が付いたらしいのだけど、ノルは誤って向こう側の世界と、こちら側の世界を繋げてしまったようでね、ある条件下のもとで行き来出来るようになってしまったらしいよ」


「じゃあ、帰りたい時には帰れるのね?」


「うん。条件が整えば。あ、そうそう。ノルから伝言を頼まれていたのを忘れていたよ。あちらの世界で、きみの借りていた部屋に残されていた持ち物は全て、こちらの世界に転移させて、ノルが収納ボックスに入れて預かっているってさ」


「えっ? 本当? やだ、見られてないよね?」


「多分……、大丈夫だろうよ」



 サクラが真っ赤な顔をして、恥じらうのが可愛い。何か見られては困るものでもあったのか? 後でノルに聞いておこう。



「フィルマンさま、グッズ見られたら恥ずかしすぎて死ねる」


「お願いだから簡単に死ぬ、死ぬ、言わないでくれ。僕の心が動揺しておかしくなりそうだ」


「フィル。だって、あれを見られたら恥ずかしすぎて……、もうお嫁に行けない」


「そんなに? でも、安心しなよ。サクラは僕のお嫁さんになるんだろう?」


「そうだった。わたし、あなたのお嫁さんになるんだった」



 てへっと、頭を小突く振りをするサクラも可愛らしい。



「そんな顔すると、襲っちゃうぞ」


「きゃあ、フィルに言われちゃった」



 夢の中のサクラは、現実よりも雄弁で結構、本音を晒しだしてくれる。そんなサクラが愛おしすぎて、腕の中に閉じ込めたくなる。



「サクラ、いまきみは幸せ?」


「あなたに出会えて幸せよ」



 抱擁すると、彼女が僕の胸に頬を寄せてきた。彼女の頭頂部にキスをすると、耳が赤くなった。もうここにはあの日のように一人寂しく泣いていた彼女はいない。僕の側で、彼女はひまわりのように微笑み続けることだろう。



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