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79話・狡い男のプロポーズ


「混乱させてごめんね。それにはこっちの事情もあってね。表向きには僕は陛下の寵愛する女性の息子とされている」


 ますます理解が追いつかない。どういうことだろう?

後出しのようにじゃんじゃん、情報が入ってくるけど、それはわたしが知っていたものとは全然、違った。

 フィルマンはこの国に流れている自分の噂に、わたしが惑わされているように思っているようだ。



「母は政略結婚でこの国に嫁いできた。そしてその頃、父王には溺愛する女性がいた。この国では国教である蒼天教が一夫一妻制を唱えているから、国王は妻を一人しか持てない。父王は愛人と別れる気はなく、母とその女性は同じ時期に子を妊娠した」


「それが陛下とあなた?」


「そうだ。母の方が出産は早く、僕が産まれて半年後に弟が産まれた。相手の女性は出産と同時に命を落とし、嘆き悲しんだ父は無謀にも、その生まれた子を嫡男にすべく王妃が産んだ子と偽らせた。父王としては自分の後を継がせるのは、愛人が産んだ子にしたかったようだ」


「ベネベッタさまは、それに対して反対したのでしょう?」


「もちろんしたよ。でも、父王は聞き入れることは無く、僕は母と引き離されるようにして、乳母と数名の女官や護衛達と共に西離宮へと追いやられ……、いま母が住んでいる宮殿だけど、そこで養育されることになった」


「そうだったの」


「でも、離宮暮らしはそう悪くもなかったから、そんな顔しないでいいよ。僕は母が密かに祖国から招き寄せた教師陣や、この国でも理解ある人々の手によって守られてきた」



 そのおかげで今の自分があるのだと、フィルマンは誇らしげに言った。



「僕はわりと伸び伸びと育てられてきてね、その点では弟の方が苦労したと思うよ。王太子になるべく厳しく養育されてきたから」


「じゃあ、そうなると王太子に、あなたは指名されていたわけではないのね?」


「いやあ。それがねぇ、父も何を取り狂ったのか、ある日、やっぱりおまえを王太子にすると言い出したのさ。僕はその為の養育も受けていないのにね。困っちゃうよね。弟は自分が受けて来た教育はなんだったんだって、怒りだすし当然だよね。だから父が僕の後見役になるべく選んだ、公爵家のご令嬢との婚約解消を願い出た」


「それが真相だったのね?」


「まあね、父はもの凄く怒ってここから出て行け! なんて言うものだから、その日のうちにペアーフィールドに向かった。そこは王家のお狩り場で、狩猟屋敷があったのを覚えていたからね」



 フィルマンは飄々としているが、きっとここまで来るまでに辛く悲しいことも、沢山あったに違いない。そのことを口に出す人では無いことを、わたしは良く知っている。

だからその代りに、いっぱい楽しいことを増やしていけたらいいなと思っている。わたしはあなたの支えになる為に、この世界に来たと思うから。


「今日は沢山、楽しみましょうね」


 ベンチから立ち上がって、彼の腕を引く。彼は微笑みながら立ち上がった。


「その前にね、僕からきみに言いたいことがある」


「何かしら?」


「サクラ、いや、川上桜花さん。僕と一緒になってくれませんか?」


「え?」



 どういう意味だろう? フィルマンがわたしの本名を、スラスラと口にしている。何が起こっているの? 数秒、脳が考えることを放棄したような気がした。


もしかして──? 


 その意味を考える前に彼が顔を赤らめながら、暴露してくれた。



「これでもプロポーズしたつもりだけど。向こうの世界では違った? この場合跪くもの?」


 フィルマンがその場で、片足を引いて跪いた。


「桜花。お願いだ。頷いて欲しい」


「フィルマン……」


 彼からのプロポーズで胸が一杯なのに、その上、乞われて拒む気になんてなれない。ただ──。


「わたしでいいの?」


 彼ならわたしでなくとも、いくらでもお相手が現れそうだ。自信が無い。


「僕が他の女性と結ばれても良いと?」



 そんな言い方は狡い。彼が他の女性と結ばれるのを黙って見届けられるほど、気持ちは割り切れそうにない。



「そんな顔しないで。僕だってきみが他の男性と結ばれるのは嫌だ。だからきみをこちらの世界に招いた」


「じゃあ……、その責任を取って」


「勿論だよ。一生、かけて幸せにする」


 フィルマンのその強い眼差しに、観念したように言えば、彼は満面の笑みを浮かべて立ち上がり抱擁してきた。


「ありがとう桜花。本当に大事にする」


「フィルマン。わたしもあなたを……」



 その先は口にする事が出来なかった。蒼天のような瞳が近づいて来たと思ったら、唇を塞がれてしまったから。どうやらここからわたし達の新しい関係が始まりそうだ。




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