78話・ベネベッタさまの実子?
「サクラ。しばらく会えなくてごめん」
「気にしないで。お仕事が忙しかったのでしょう?」
領主の仕事ってよく分からないけど、フィルマンが隣でため息を漏らすほど大変だったらしい。
「やっと厄介な仕事が片付いて良かったよ。これからはきみとゆっくりする時間も取れる」
「無理だけはしないでね」
元の世界でOLとして働いていたわたしは、仕事の大切さは良く分かっている。彼の仕事の邪魔にだけはなりたくなくて、何か無い限り自分の方から転移ドアを使って、彼の元へ訪問するのは避けていた。
でも、ゲッカのことがあってからは、就寝時間になると一人で寝ているのは怖く感じられて、枕を抱えて彼の部屋に度々お邪魔するようになっていた。
「僕はね、こうして昼間にきみと一緒に街中を歩いたり、食事やお買い物をしたかった。付き合ってくれるかい?」
「もちろん。こちらからお願い致します」
「では、お手をどうぞ。サクラ」
フィルマンと手を繋ぎ、街中を闊歩する。二人が会えるのは大抵、夜だったから新鮮なものがあった。フィルマンと、お店のウインドーに飾られている商品を目で追い、楽しみながらしばらく歩いていくと公園が現れた。
「入ってみようか?」
「はい」
そこは植物公園のようになっていた。木々や色とりどりの季節の花が、至るどころに植えられている。それを目で楽しめるように遊歩道が出来ていて、それにそって進むと、大木の下にベンチがあった。
「少し休もうか? こちらにどうぞ」
フィルマンはベンチの上にハンカチを敷いて、そこに座るように促してきた。ハンカチの上に座るなんて悪い気がしたが、彼がにこにこと勧めてきたので、その通りにした。
美しい園内は勿体ないことに、自分達の他に誰もいない。まるで貸し切り状態のようだ。自分達の他に誰もいないことを良いことに、わたしは気になったことを聞いてみた。
「ねぇ、フィル」
「なに? サクラ」
「あの、あなたとベネベッタさまは、随分と仲が良いのね」
「仲は悪くないよ。実の母子だからね」
「えっ? ベネベッタさまって、あなたにとって継母ではないの?」
「ああ。この国の噂を聞いちゃった? この国では僕は言われ放題だからね。15年前に王宮を追われた時に、色々と噂に尾ひれが付いて、僕は不遇な人ってことになった」
「違うの?」
「うん。まあ、ちょっと違うかな。王族は滅多に国民の前に顔を出さないのもあって、現国王と僕が同い年っていうのも案外知られてないしね」
「同い年?」
「数ヶ月先に僕が先に産まれただけなんだ」
「あなたはお母さまを亡くして……、あれ、ごめんなさい。じゃあ、あなたのお母さまであるベネベッタさまは後妻じゃない?」
わたしはゲームの内容を思い出した。こんな設定じゃなかった気がする。ベネベッタさまはフィルマンの継母とされていたのに、違っていた?




