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7話・サクラを名乗る少女



 フィルマンは戸惑っていた。


 ノルベールが異世界召喚に成功したと告げた翌日。自分の住む古城の前に一人の少女が現れた。黒髪に黒い瞳のその女性は「サクラ」と名乗り、フィルマンに面会を求めた。


 応接間に通し面会をすると、彼女はフィルマンの顔を見るなり、感極まったように「キャーッ」と、叫び、「あんたがフィルマンさま?」と、目を輝かせた。




「あたし、サクラだよ」


「サクラ? きみが?」




 訝るフィルマンに、彼女は胸を叩いてみせた。




「ご領主さまにこうして会えるなんて。しかもこんなにカッコイイなんて聞いていない」


「きみはどこから来たの?」


「あたしは孤……、気が付いたらここにいたの。良く分かんない」


「きみとは初対面だと思うけど、どうして僕のことを知っているのかな?」


「だってあたしはヒロインだって言われたの。ご領主さまが恋のお相手になるって。あんたはこの国の第1王子で──」




 彼女はそう言うなり、フィルマンの身の上をぺらぺら語り出した。でも、それは一般的にこの国の者なら皆が知っていることだ。フィルマンは彼女に対し、不信感が拭えなかった。




「あたしさ、王子ではなくなったあんたは、33歳のオジサンだって聞いていたけど、こんなにカッコイイと思わなかった。ラッキー、ツイてる。あたしは16歳だから年の差は17歳だけど、あたしの許容範囲内だからOKだよ」




 彼女は両手を胸の前で組み、フィルマンに何を期待するような目で見るが、彼は意味が分からなかった。




「あれ? 何で? あたしのこと可愛く思えない? ここでぎゅっとあたしを抱きしめたくなったでしょう……?」




 彼女は小顔であどけなさが感じられる。確かに可愛らしい顔立ちはしているが、それだけだ。知性の欠片も感じさせない彼女の言動に、彼はため息を漏らした。




「きみのことは取りあえず、身元が判明するまでこちらで保護しよう。何か自分の素性に関することを思い出したら教えて欲しい。メア」


「はい」


「こちらのサクラ嬢をしばらく保護する。客間に案内して欲しい」




 壁際に控えていた中年女性の侍女頭のメアに、彼女の世話を頼むと応接間から退出しようとした。




「あ。待って。フィルマンさま」


「サクラさま」




 彼女はフィルマンの腕を取った。彼女は自分の容姿に自信があるらしく、それに少しも反応しないフィルマンの態度に焦りを覚えたようだ。




 しかし、いきなり男性、しかも目上の人の腕を取るなんて失礼にあたる。それを見かねてかメアが止めようとしたのに、彼女はその手を振り払った。フィルマンは礼儀のなっていないサクラの態度に眉根を寄せた。




「城内を案内してくれないの?」


「それならメアに頼むと良い」


「あんたにお願いしたいの」




 メアは主人を「あんた」呼ばわりする少女を見て、青ざめた。




「僕には仕事がある」


「じゃあ、あたし手伝う」


「結構だ」




 断ると、彼女は納得が行かない顔をした。フィルマンからみれば、彼女は怪しさ満載の少女。そこで執務の手伝いを申し出るなんて、尚更、疑って下さいと言っているようなものなのに、本人は気が付いてないようだ。


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