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76話・街の噂



 サクラメント領にも、そのお知らせは届いた。王都でフルバード国王の第一王子のお披露目がされたらしい。今まで王妃さまとの間に、子が生まれたという話は聞かなかったらしく、領内の皆が驚いていた。



「今まで公表するのを避けていたらしいよ」


「へぇ。すぐにでも公表したら良かったのに……」


「王妃さまに気遣ったそうだ。王妃さまは病弱だったらしく、流産を何度も繰り返していて、無事に出産なさった後も不安がっていたらしい。でもようやく授かったお子様だけに大切に育ててきて、ようやく6歳のお誕生日を迎える前にお披露目なさったとか」


「なかなか妊娠できない辛さは、あたしらと同じだね」


「これで王妃さまも一安心だね。自分のお子さんが後継者として認められたようなものだろう?」


「その場には他にも弟王子や、妹王女さまもいたらしいよ」


「ほう。じゃあ、何かい? 陛下には王妃さまとの間にすでに三人お子さんがいたのかい?」


「そうらしい」


「お目出度い話で、別に隠す事でも無いと思うのにね。今まで公表を避けてきたのはなんだったのかね?」


「さあな」



 馬車から降りて石畳の上を歩いていると、方々から陛下や王妃さまの話が聞こえてくる。皆、王家には特別な想いを抱いている。自分達とは住む世界の違う、雲の上の方々で、まさかその関係者が、わたしと肩を並べて歩いていようとは、思わないよなと苦笑したくなった。


 今日は再びサクラメント領を訪れた王太后陛下の望みで、パン屋に向かっていた。以前、王太后陛下が万引きしたと言われて揉めたパン屋だ。

 その後、深く反省したようで、お詫びに訪れたいと言われて、ヴィオラ夫人に頼まれて同行している。しかし、今日は前回とは違い、お供の数は多く、金ぴかの制服を着た護衛に両脇を取り囲まれていて無駄に人目を惹いた。



「あのきらきらしいご一行様はなんだい?」


「なんだろうね? どこに行くんだろう?」



 陛下達の話をしていた人達は、わたし達に気が付くと話すのを止めてジロジロ見てくる。お店の前まで直接、馬車を止められればいいのだけど、このサクラメント領では、飲食店が並ぶ街中では馬車での通行は止められている。馬車を止める場所が決められているので、そこで馬車を降り歩くことになるのだ。

 目的のパン屋の前に来て、わたしは深く深呼吸をしてから店のドアを開けた。



「おばさん、こんにちは」


「あら。ミュゲちゃん。こんにちは。そっちの女性は……?」



 パン屋のおばさんとは、何度か足を運ぶうちに親しくなり、名前で呼んでもらえるようになっていた。



「覚えていないかしら? いつぞやはお金も払わずにパンを持ちだして悪いことをしました。今日はその謝罪をしに参りました」


 おばさんははて? と、首を傾げたが、「ああ!」と、思い出したように手を叩いた。



「あんた、あの時の」


「お止めなさい」



 驚いたおばさんが、ベネベッタ王太后陛下に指を指したものだから、護衛達が腰の刀に手を触れる。それを王太后は止めた。


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