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6話・フィルマンさまが可哀相




「これじゃ、フィルマンさまが可哀相……。わたしだったら、絶対フィルマンさまを一人にしたりしない……」




 わたしは彼の境遇に同情した。彼は良い人なのに、どうしてこんな酷い目に合うのか。ゲームの中のお話だというのに、涙が出るほど悔しくなった。


 たかがゲームに感情移入し過ぎているところがあるかもしれないけど、それだけこのフィルマンにのめり込んでいた。


 彼は滅多に人の悪口を言わないし、貶めようとしたりしない。王妃に虐められていた時でさえ、義母上は自分が至らないから不甲斐なく思われるのだな。と、真面目に受け止めていた。父王に告げ口もせず良い子チャン過ぎた。


 そのフィルマンさまは、地方領主となっても、輝きは失われない。わたしから見れば、彼はどこにいても、何を着ていても王子さま。現実にはなかなかいない理想の男性がそこにいた。


 ゲームを始めると、『やあ、サクラ。きみに会えて嬉しいよ』と、フィルマンが現れて話しかけてくる。


 ゲームの中でのわたしの役どころは、彼の治めるペアーフィールドの領主館前に、急に現れた正体不明の謎の女性サクラ。フィルマンに保護されて、客人として領主館で暮らしている。しかし、それを聞きつけた現王妃(彼の元許婚)が、快く思わないようで、サクラを他国のスパイでは? またはどこかの国がフィルマンに目を付け、彼と手を組み自分達の王座を揺るがそうとしているのでは?と、疑い、子飼いの騎士や間諜を送り込み観察している。


 彼らは始め、観察対象として距離を取りサクラを敵視していたが、だんだんとそれが緩くなってきて、自分から話しかけてくるようになっていた。


 この恋愛ゲームでは、フィルマンとその騎士、間諜らが攻略対象として用意されているようだ。この領主館内で騎士は料理人として、間諜は庭師として潜伏している。


 わたしはフィルマンさまに一途なので、彼らのことは全然気にしていない。もしかしたら、王妃さまからサクラを誘惑し、フィルマンさまから引き離すように指令でも出ていたりするのかな? 

 そのせいか気安い態度で、近づいてくるんだよね。

 まだ、ストーリーの途中までしか攻略できてないから、彼らの事情までは良く知らないけど。


『サクラ。どうしたの?』


 考え事をしていたら、フィルマンに呼びかけられていた。それに応じようとしたら、ゲームの画面が動かないことに気が付いた。ボタン操作も何の反応も示さない。気のせいか本体も熱を持ったように熱くなっている。


「何これ? 固まった? 一度、電源落として様子を見た方が良いかな?」


 焦ってあっちこっちこうでもない、ああでもないと、ボタンを押しまくり、電源ボタンのスイッチを切ろうとした時だった。ゲーム機がチカチカ光り出した。


そして『ペアーフィールドにご案内します。


▽行く?


▽行かない?』


 と、表示が現れた。


 このゲームを始めて半年ほど経つけど、このような表示を今まで一度も見たことはない。どうなっているの? 不思議に思いながらもゲームを続けたいので「行く」を選択したら、周囲がぐにゃりと歪んだような気がした。


「……!?」



 部屋の中が揺らいで見える。振動はない。地震ではないようだ。それでも異変は感じる。自分の体に何か起きているとしか思えなかった。そしてわたしは気が付いてなかった。その▽表示の行く、行かないを問われた後にももう一つ▽があり、そこには小さく行くを選択した場合は、もう二度とこちらに戻って来ることはないのでよく考えて選択して下さいと、注意書きがあったことに。 


「嫌だ。救急車……!」


 咄嗟に電話をすることを思い立ち、携帯電話を手にした途端、それが掌から消えた。


「どうなっているの?」


 訳の分からない状態に青ざめた瞬間、目の前が真っ暗になった。



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