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63話・恐ろしい男



「あのサクラは、あんたにとって弱みになると思ったし、俺の今後の保険の為にも彼女を手元に置いておくつもりだった」


「保険ねぇ。それにしては計画が杜撰だよ。あの女を宛てにしない方が良い。あの女と約束でもしたのか? ノルベールを排斥する事が出来たら、その後釜としておまえを王宮魔術師長の座に据えるとでも言われたか?」



 フィルマンの指摘に、フォリーは顔色を変えた。確かにあの御方とはそのような約束をしている。それをなぜフィルマンが知っているのか。



「どうしてそれを? 俺達が繋がっていることを知っていたのか?」


「僕も甘く見られたものだね。恋に逆上せあがって周囲が見えてないとでも?」



 きみのように配下の者を王宮に潜ませていないとでも? と、虫も殺さないような顔をして微笑む。それが恐ろしく感じられた。一領主の微笑みでは無い。圧倒的な支配する者の表情で、一部の隙もない。

あの自分達を虫けら同然のように扱ってきた先王陛下が、自分の後継にと考えていた王子なのだ。単なるお人好しのはずがなかった。



「きみの可愛い手の者だけど、取り押さえてある。ゲッカとかいう庭師と兄妹だったとはね。彼女は騎士団長の取り調べを受けている。騎士団長は女だからと言って容赦しない。彼女の方はいつまでもつかな?」


「この悪魔め! 彼女には手を出すな」


「悪魔で結構。おまえも含め、僕の大事なサクラを害した奴らだ。簡単には死なせてやらない」


「おまえの女はサクラメントに運んだだけで、何も危害を及ぼしてないだろうが」



 フォリーは直接、サクラに接してはいない。王宮騎士らの下っ端を連れて屋敷に乗り込んだ時には、毅然としたヴィオラ夫人や護衛に庇われている彼女を見たがそれだけだ。彼女に近づく暇も無く、その場から逃げ出したから。



「おまえ達が異世界召喚に横槍を入れて、サクラメントに彼女を魔術で強制送還なんてした為に、彼女は記憶を失った」


「はあ? 聞いていないぞ。記憶喪失? では異世界での情報を得ることは出来ない? あいつ、何で……?」



 フォリーは異世界人サクラが、記憶を失っているとはゲッカから報告を受けていなかった。ゲッカはフォリーが異世界に執着していることをよく知っていた。



「あいつ……、裏切ったのか?」


「彼は実に良い働きをした」



 サクラの記憶はもう戻っているが、それをフォリーに伝える必要は無いとフィルマンは判断した。未だサクラは記憶喪失なのかと、誤解しているようなフォリーに、フィルマンは毒を注ぎ込むように言った。



「あの女とおまえを結びつけたのは誰だ? ゲッカだろう? 彼はもともとあの女の配下だ」


「……初めから騙されていたのか?」



 呆然としながらもフォリーが脳裏に思い浮かべたのは、お茶を飲む彼女の姿だった。彼女は定期的にゲッカから送られて来るというお茶を好んで飲んでいた。


「あの女との約束なんて、あってないようなものだ。期待はしない方がいい」



 フィルマンの言葉に、フォリーは絶望した。フィルマンはあの御方の元許婚だった男だ。その彼が言うのだから、その言葉に嘘は無いだろう。あの御方を頼る事は出来なさそうだ。

 それにフィルマンの口ぶりでは、あの御方は初めから自分達を切り捨てるつもりで扱っていたように感じられた。もう終わりか。と、項垂れそうになった時に目の前の麗しい悪魔が囁いた。



「義兄弟の誼で助けてやろうか?」


「それの対価による」


「結構、言うじゃないか。まあ、いい。取引をしようか」



 フィルマンの誘いに正直、気乗りはしないが、ここでは応えるべきなのは分かっていた。フィルマンのような男は、敵に回してはいけない男だ。報復された時が恐ろしい。

 それでもただで屈したくなくて言えば、彼は心底可笑しそうに笑った。



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