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59話・領主の訪問



「しんぷさま~」


 そこへ孤児の一人が聖堂に顔を覗かせた。5歳くらいの男の子だ。ここに住む子供達は神父の裏の顔を知らない。身近な大人として男のことを信じ切っていた。

 その純粋な瞳はいつまで続くのだろうとゲッカはぼんやりと考える。自分達兄妹にも、こんな時期があったのに。いつの間にか世の中の理不尽さを知る頃には、他人のことなど信用出来なくなった。


 しかし、ある女性と出会ったことで、自分の中の存在意義が揺らぎ出した。彼女は真っ向からゲッカのことを信じた。疑う事がなかった。記憶がないせいか、ゲッカに懐き出した。いずれはこの男に差し出すことになるからと距離を置こうとしたのに、彼女は警戒も無く近づいてくる。それが自分の中の罪悪感を刺激し、苦しかった。


 このような思いを抱かせる彼女に苛立ち、八つ当たりしそうにもなった。でも、だからと言って彼女をゲッカは妹と二人貧しさ故に、孤児院に捨てられ、この男に出会った。男は神父で聖職者であることから迷いなく信じた。



「何かな?」

「おきゃくさまがきたよ」

「お客さま? どなたかな?」



 男の子が後ろを振り返ると、王家特有のプラチナブロンドの髪をした、端正な顔立ちの青年が現れた。王兄にして、ここのペアーフィールドの領主フィルマンだった。



「案内、ごくろうさま。きみ、もう行っていいよ。向こうでお菓子をもらうがいい」

「ありがとう。ごりょうしゅさま」


 男の子は大喜びで駆け去っていく。フィルマンは聖堂の中に進み出た。後ろには王宮魔術師長である、ノルベールを連れていた。



「やあ、神父。突然の訪問、失礼するよ」

「これはご領主さま。どのようなご用件で?」

「例の少女へのお悔やみと、きみがなぜサクラという女性を知っていたのか、訊ねたいことがあってね」



 それを聞いた途端、神父はこの場から逃げ出そうと詠唱を始めたが、それをノルベールによって一瞬にして、打ち消された。



「へぇ。神父だってのに、魔術が使えるのか? しかも転移術。驚いた」


 ひょうひょうとした言い方をしながらも、ノルベールが睨み付けてくる。


「おまえ。神父じゃないだろう? いつからだ? いつから成りすましていた?」


 この世界では神職にある者は神聖力が使えるが、それと相反する魔術は使えない。その特性から魔術師は神職につけないことになっていた。

 ノルベールは一目で、この神父が偽者であると見破った。


「聖職者の成りすましはこの国では重罪だ。捕縛させて貰う」



 フィルマンの言葉で、聖堂内にわらわらと騎士達が踏み込んできた。男は再び魔法を扱おうにも、ノルベールによって封じられてしまい、ゲッカと共に抵抗空しく、捕らえられてしまった。


「きみらについては、叩けば色々と出て来そうだ。それぞれ取り調べをおこなうことになる」


 男とゲッカは捕らえられてもまだ、落胆してはいなかった。一人この場から逃げ出した者がいるからだ。まだ、何とかなると気持ちの上で余裕があった。

 男は特に、フィルマンという男を嘗めきっていた。勢力争いを拒み、王位を弟に譲ったような男だ。見た目通りのひ弱な性格をしているのだろうと思い込んでいた。


 ところがフィルマンほど、王族の悪い部分を忌み嫌いながらも、自分の愛する者を害した者に対して容赦がないことを嫌でも知ることになった。



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