54話・よく話し合って欲しいです
「陛下って、王太后陛下とすれ違っていらっしゃるのね? よく話し合った方が良いと思う」
「王太后陛下が何か言っていたのかい?」
「陛下に対して不満を持っているみたいだったわ。先王陛下が亡くなって、自分が王となったら母親の自分を、厄介者扱いのように西離宮へ追いやったと、思われているみたい」
「このマキューシ国では王が崩御すると、王太子が王位に就く。葬儀が終わり次第、元王妃は政権交代ということで離宮に行くことになる。王太后陛下は他国から嫁がれた御方だから、それが非道に思われるのかも知れない」
「それとご本人は未だに、先王陛下の死に納得が行かないみたいよ。突然亡くなられたようなことをおっしゃっておられたけど、そうなの?」
「僕もそこは信じがたい思いがある。先王陛下は前日までお元気で、鷹狩りに参加されていた。その晩は疲れたから早めに寝ると言われていたそうだよ。ところが翌日、陛下を起こしに行った侍従が、陛下が亡くなられていたのを発見したそうだ」
「そうだったの。だからなのね。王太后陛下が信じたくないと、言っていたから。それとね、気になることがあるのだけど」
「何だい?」
「王太后陛下は、王妃さまとあまり仲が宜しくないのかしら?」
「さあ、どうだろう? その辺りは僕もふたりとはそんなに交流がある方ではないから、良く分からないな」
ゲームの中のストーリーでは、王太后陛下が我が子可愛さに、王妃と陛下を引き合わせたような描写があった。てっきり二人は気が合うのだろうと思っていたが、昼間の王太后陛下の愚痴を聞く限りでは、そうでもなさそうな気がした。
嫁である王妃と仲良くやっていたのなら、わたしに嫁と姑の仲は相容れないと聞くがどう思うか? なんて聞いてこないと思う。
恐らく王妃さまと何か確執があって、嫁と同じ世代に思われるわたしに、姑という存在に対してどう思うのか聞いてみた感じがする。取り繕った答えで気分を害してあのような事を言ってきたのだと思うけど、不満があるなら直接、本人に言えば良いのに迷惑な御方だ。
「今度それとなく陛下に話してみようか?」
「その方が良いと思う」
大公国の姫として育って来た王太后陛下には、世間知らずな一面が垣間見えて、この先も何かやらかしそうな気がしてハラハラする。そうなると陛下は使いものにならなくなるのは知れたし、フィルマンがその度に尻拭いする未来が早くも見えた気がして嫌だ。
フォルマンは優しすぎる。輝かしい王位継承者としての地位を捨てさせた彼らを憎んでも良いはずなのに、頼られると拒まないのだ。断っても良いと思うのに。
きっと彼の事だから、自分が手伝わないと、彼らの下で頑張っている人達の仕事に、支障が出ると分かって手を貸してしまうのだろう。
フィルマンは苦労性な人だと思う。そしてそんな彼を好きになってしまった自分は、彼に手を貸したくなるし、応援したくなる。
「ねぇ。サクラ」
「なあに? フィル」
「僕らは久しぶりに会えたんだよ。他の人の事より僕らの話をしよう」
少し拗ねたようなフィルマンが、愛おしかった。自分よりも年上で頼りがいのある彼が、自分に対して見せた嫉妬に愛されているのを感じる。
「フィル、好きだよ」
「僕も」
フィルマンの顔が近づいて来た。思わず目を閉じると唇に柔らかいものが触れる。それが何度か触れあわされた後で、彼に促された。
「寝ようか」
「うん」
嬉し恥ずかし状態で頷けば、彼はわたしをベッドに倒し、覆い被さってきたので、いよいよ今夜彼と? と、ドキドキしたら、その横に寝転がった。
「今日は朝早くから動いていたから、ごめん、もう眠くてね。お休み」
欠伸を漏らした彼は手を繋ぐと、寝息を立て始めた。そんな彼に寄り添いつつ、わたしも瞼を閉じた。彼の体温は高くて、彼の温もりに触れている間に寝入ってしまったらしい。気が付けば朝を迎えていた。隣で寝ていたはずの彼の姿もない。フィルマンは先に起きて、自分の部屋に戻って行ったようだ。




