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47話・彼女が死んだ?


 ノルベールと共に、ペアーフィールドの屋敷に転移ドアで戻って来たフィルマンは、執務室に赴きそこで執事から思わぬ報告を受けることになった。


「なに? 彼女が亡くなった?」


 信じがたい話だった。今朝、彼女と顔を合わせたばかりだったから。毎朝、彼女はフィルマンが部屋から出てくるのを必ずどこかで待ち伏せしていて、後を追い掛けてきては、食堂で共に食事をすることになる。


 それがフィルマンにとって、悩みの種となりつつあった。サクラを名乗る彼女は、食事のマナーが非常に悪かった。


 料理を前にして大きく口を開けて笑い、唾を飛ばすのは毎度のことで、お皿に乗っている魚や肉を切ろうとして、ガチャガチャ音をさせてはナイフやフォークを滑らせ、床の上に飛ばすことも多かった。


 ナイフやフォークを飛ばした後は、給仕からナイフを用意して貰うまで待てないようで、指で料理を摘まんでは口に入れる。スープはスプーンで掬って飲むのが面倒だと、器に直接口を付け、ズッズッズと音をさせて一気に飲みきる。


 口元が汚れると,ナプキンで拭こうともせずに、着ているドレスの前腕で口元をぐいと拭うものだから、侍女頭のメアが真っ青になっていた。


 フィルマンは、彼女がこの屋敷に「サクラ」と名乗り現れてから、世話と監視を侍女頭のメアに頼んでいた。


 メアはフィルマンと接触したがる彼女に、彼と交流したいのなら、少しでもマナーを学んだ方が良いと、食事のマナーの基礎から教えようとしたらしいが、当の本人が覚える気もなく、受け流していたようだ。


 その為、マナーは改善されるはずもなく、フィルマンは彼女と食事するのが億劫となってきていた。そろそろ自白剤でも持って、誰に唆されてこの屋敷に来たのか、探りを入れようかと思っていた矢先の事だった。


「死因は何だ?」


「毒のようです」


「……!」


 執事の「死因は毒のようだ」と言う言葉で、真っ先に頭に浮かんだのは口封じだった。ノルベールも同じことを考えたのだろう。聞いてきた。


「おい、フィルマン。誰か彼女の側に付けておかなかったのか?」


「いや、メアと護衛を付けていた」


 メアはこの屋敷の侍女頭をしているが、元はフィルマンの乳母をしていた者だ。フィルマンが詳しく話をしなくとも、彼の意を汲んで動ける人物でもある。そのメアが彼女から目を離し、死なせるはずがない。そこに何かがあったとしか思えなかった。


「あの御方はご不浄に行かれたようです。メアが付いていこうとしたら、ご不浄まで付いてこられたら出るものも出ないと拒まれたそうで、ご少し離れた所で護衛と待っていたそうです」


 ご不浄とはトイレのことだ。この屋敷のトイレは、一応屋敷内にはあるものの、端の方に設置してある。庭を囲む回廊を通って行かなくてはならない。


「ところがなかなか戻って来ないので不審を抱き、護衛と共にご不浄の部屋まで行ったら、すでにそこはもぬけの殻となっていたそうで、報告を聞いて我々皆で手分けして探していた所に、あの御方を訪ねて来客がありました」


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