38話・王太后陛下の失踪?
「サクラ。きみを好きになっても良いかな?」
「フィルマンさま。わたしもあなたを好きになっても良いですか?」
澄み渡る青空のように澄み切った瞳。そこには希うようなわたしの姿が映っていた。
「僕のことはフィルと呼んで。親しい人達はみな、僕をそう呼ぶ」
「フィルさま」
彼と直接会ったのは今回が初めて。それなのに以前から知り合いだったかのようにしっくりくる。頷くと彼は身を屈めて顔を寄せてきた。そこへ慌ただしくノルベールが姿を見せた。
「フィル、大変だ──っ」
「どうした? ノル」
フィルマンは不機嫌そうにわたしから離れた。これから良いところだったのに、とでも言いたそうな顔をして。ノルベールもそれに気がついたのか、気まずそうな顔をした。
「あ。悪い、悪い。今、緊急で知らせが入ってさ。王太后殿下が、お住まいの西離宮からいなくなった」
「王太后殿下が? 本当か?」
「嘘をついてどうなる」
ノルベールからの知らせに、フィルマンは顔を曇らせた。王太后殿下と言えば、ゲームの情報では確か、現陛下の実母でフィルマンにとっては義理の母。その人が失踪した?
「西離宮で捜索しているらしいが、どこにも姿が見られないらしい。これから西離宮へ向かうが、フィル、おまえはどうする?」
「私も行こう」
義母とはいえ、行方が気になるのだろう。フィルマンは即断した。
「悪いがサクラ。また、後でゆっくり」
「わたしのことはどうぞ気にしないで下さい。王太后さまがご無事だと良いですね」
「ありがとう。済まない」
そう言って慌ただしく、フィルマンはノルベールと扉の向こう側(フィルマンの寝室側)の世界へと戻って行った。




