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18話・わたしは桜花です



「きみは記憶がないそうだね?」




 アガリー氏に問われて素直に頷くと、彼に聞かれた。




「サクラと言う言葉に、何か気になるものはないか?」


「サクラ……? どこかで聞いたような?」








 その言葉は、初めて聞いた気がしなかった。どこかで聞いたような気がする。聞き覚えがあるのは確かだ。かすかな記憶を頼りに意識を向けると、小さなピンク色の花が木に沢山咲いて、花弁が風で舞う華やかな様子が脳裏に思い起こされた。あれは春の季節に咲く美しい花。そして自分の名前の起源ともなった。






──桜!






 段々と頭の中にかかっていた、霞のようなものが晴れていくような気がする。その霞が晴れて頭の中がスッキリしたと思えば、次々と忘れていたことが頭の中に浮かんできた。






「春の季節に咲く花の。それは、わたしの名前……」


「きみの名前はサクラか?」


「はい。わたしの名前は桜花さくらです」




 ようやく自分の名前が思い出せた。その事が嬉しかった。ヴィオラ夫人やユノは驚いていたが、アガリー氏の声は喜色に溢れていた。




「そうか。きみがサクラか。今まできみを捜していたんだ。これで良い報告が出来る」


「ミュゲさんがサクラさんだったの? 良かったわね。ノル」




 喜ぶアガリー氏に、ユノは笑いかけ、ヴィオラ夫人も「良かった」と、涙目になっていた。ヴィオラ夫人は記憶が戻らないことを、自分のことのように気に掛けていてくれたから、これで安心したようだった。




「きみはどこまで思い出した?」


「え──っと、ここではない世界で暮らしていた、しがないOLで恋愛ゲームをしていたら、そのゲーム機がおかしくなって、気が付けばこちらの世界にいました」




 ユノは興味津々といった感じで、身を乗り出す勢いでわたしの話を聞いていたが、隣にいるヴィオラ夫人は何が何だか分からないと言った顔をしていた。当然の反応だと思う。今までの記憶を取り戻したわたしだけと、どこか夢みたいにふわふわとしていて現実のように思えない。




「ヴィオラ夫人。これからの話は内密にお願いします」


「分かったわ。ノルベールくん、あなたがそう言うぐらいだから、何か機密に関わることなのでしょう?」




 ノルベールは頷いて、パチンと指を鳴らした。




「これでこの部屋には防音魔法がかけられています。話は第三者に聞けないようになっています」




 と、前置きをしてから説明をし出した。




「実はこちらのサクラは、異世界人なのです」


「異世界人?」




 ユノは驚く素振りなかったから、夫のノルベールから何か聞かされていたのだろうと思う。この場で驚いたのはヴィオラ夫人だけだった。




「異世界人がいるということは、召喚か何かでこちらの世界に現れたの?」


「俺がある人の願いを叶える為に、彼女を呼び出しました。でも、それは一方的に彼女の都合も考えずに呼び出すのではなく、彼女の同意を得てのことです。それとこの件は、陛下からも一度だけと許可を得て行いました」


「そう。陛下の許可が降りているのなら、わたくしが何か言うことではないわね」




 ヴィオラは渋々納得した様子をみせた。わたしは彼の話を聞いていて気にかかることがあった。





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