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15話・悪女の策略



 陽光が差し込むサンルームで、女は使用人に用意させたお茶を堪能していた。




「この茶葉は、サクラメント産なのよ。香りが上品で実に私好みのお茶だわ」


「あいつからですか?」


「ええ。彼は実に私の好みを理解しているわ」




 女は持ち上げたティーカップを、ソーサーへと戻すと、この部屋を訪れていた男に目をやった。


この場には男と二人きり。使用人達は男がこの部屋を訪れると、主人の意を汲み静かに部屋を座すのが身についていた。使用人は気が利くのに限ると女は思っている。




 ある程度、主人の気持ちの先を読んで行動するぐらいでなければ、自分のもとではやっていけない。使えない使用人はいらない。その為、女の使用人達は優秀で口が堅い者ばかりだ。




 女は地方領主達の元へ、自分の手の者を何人か忍ばせていた。ここは国の中央部で、地方へはあまり目が行き届かない。女は欺瞞に満ちた貴族社会で生まれ育ち、その環境で育ったゆえに、常に心の中は疑心暗鬼に満ちていた。




 自分の立場など、いつ何時、誰かに取って代われるか分かったものではない。ほんの些細な出来事から立場を揺るがしてしまうことがある。あの15年前に起きた出来事は、未だ女の心に暗い影を落としていた。






 あのせいで一時、両親や兄弟達に蔑まれた目を向けられたのだ。自分には全く非が無かったと言うのに。相手が王族と言うだけで両親達は、やらかした相手を憤る事が出来ずに、こうなった結果は女が悪いのだと責め立てた。もしも、その後、縁談の打診がなかったのなら今頃、修道院であの男を憎み続ける日々を捧げていたことだろう。でも、神は自分に味方した。今では両親も兄弟も自分に逆らう事も出来ずに、こちらの顔色を窺い媚びへつらってくる。掌を返したような態度には腹が立って仕方ないが、自分は勝者だ。わざわざ小者を相手にする必要も無いだろう。そのうち何か問題でも起こせば消してしまえばいいことだ。その力も立場も自分にはある。何も恐れることはないのだ。






「あなたの横槍のおかげで、彼らが望んだ例の件は失敗に終わったようね?」




 女は真っ赤な唇の口角を持ち上げた。楽しくて仕方ない。あの男の鼻を明かしてやった。




「偽者を前に苛立っているようですよ」


「その姿を直接、見たかったわ」




 ふふふ。と、笑った女だが、ふと気が付いたように言った。




「お相手は処分したの?」


「あの御方は、本物のサクラの行方を血眼になって捜しているようですが、真相が知れた頃には、深い絶望に見舞われることでしょう」


「そしてその時には、禁止された異世界召喚を行ったとして、あの男の協力者も糾弾することが出来る」






 その日が来るのが待ち遠しいわ。と、女は幼女のようにあどけない笑みを浮かべた。



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