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14話・あいつには気をつけろ



「それがきみの良いところではあると思うけど、無理しているようにみえる」


「そうかな?」


「うん。もうきみも分かってきていると思うけど、ここのお屋敷の人達は皆、世話好きな人達だよ。もっと甘えて良いと思うよ」


「そんなこと言っちゃって良いんですか? わたし、結構、我が儘かも知れませんよ」


「きみの我が儘なんて、可愛いものだよ」




 ゲッカは気さくな人だ。わたしにとって気の良いお兄さんといった感じで何でも話せた。記憶のないことで不安になりそうな気持ちが、面倒見の良い彼によって救われていた。




「ありがとう。ゲッカさん。ゲッカさんは優しいよね。そう言えばヴィオラさまから聞きましたよ。わたしが森の中で倒れていたのを、初めに見つけてくれたのはゲッカさんだって」




 わたしはてっきりヴィオラ夫人が、森の中を散策中に倒れている自分を発見したのかと思っていたけど、実はゲッカが発見して、ヴィオラ夫人を呼びに行ってくれていたようなのだ。それを後日、夫人から聞かされていた。




「ゲッカさんはわたしの命の恩人でもありますね」




 そう言うと、彼はギョッとした様子を見せた。




「大袈裟だよ。でも、きみの命に関わる事がなくて良かった。この辺りの治安は良いけど、きみが森で倒れているのを見つけたときには、野生動物に襲われたのではないかと不安になったからね」


「野生動物? 人を襲うクマとかいるのですか?」


「向こうから人間に近づいてくることは少ないけど、たまに人間に行き当たって、お腹が空いていたなら食料にされていたかも知れない」




 それを聞いてゾッとした。人を襲う動物が生息している森の中で倒れていた自分は運が良かったのだ。




「あ。脅かしてしまったかな? でも、この屋敷周辺にはそういった動物除けの植物や、結界が施してあるからそれはごく稀なことで滅多にないことだよ」




 アハッハ。と、誤魔化すようにゲッカは態とらしく笑った。




「あ。そうそう。ミュゲちゃん。向こうの花壇の水やり宜しく」




 そう言ってゲッカは再び、木の枝の剪定に入ってしまった。一瞬、誤魔化された気がしないでもなかったが、取りあえずわたしは水やりの作業に専念することにした。


 水やりを終えると、昼食の時間となっていた。ゲッカに「先に行っていて」と、言われ、手を洗って食堂に向かえばロータスがいた。食堂にはサンドイッチと飲み物が用意されていた。




「お疲れさん。ゲッカは一緒じゃないのか?」




 ロータスが珍しく声をかけてきた。彼は寡黙なせいか、他人から声をかけられたら応じるが、自分から話しかけるようなことはあまりない。しかも、愛想がないので冷たく感じられる。わたしは少し、彼の事が苦手だった。




「ありがとうございます。ゲッカさんは後から来るそうです」


「そうか。あいつには気を許さない方がいいぞ」


「えっ?」


「あいつは愛想がいい。人が良さそうに見えるが、ああいう人間は、腹の底では何を考えているか分からない奴だ。気をつけろ」




 ロータスは一方的に言うと、すぐに調理場の方へと引っ込んでしまった。まるでゲッカには警戒しろと注意を促す為だけに、わたしの前に顔を出したかのようだ。


ここに来てから屋敷の皆に良くしてもらっている。皆親切な人ばかりで、誰一人疑ったことはなかったけれど、ロータスの一言で、嫌な気分になった。




 彼はゲッカに警戒しろと言った。その言葉でロータスはゲッカを良く思ってないのだと分かった。


二人は対照的な性格をしている。ゲッカが明るく積極的な性格をしているのに対し、ロータスは大人しく寡黙。  




 ゲッカは誰にでも分け隔てなく交流しているのもあり、皆に好かれている。それが面白くないのだろうか?






──それって単なる焼きもち?






 もし、そうなら完全な八つ当たりじゃない? 見た目は大柄なくせして心の中は矮小なのね。


ゲッカのことを悪く言う彼のことが、ますます嫌いになった瞬間だった。









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