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13話・きみは良い子チャン過ぎるね



「それにしてもあなたは不思議な人ね。身なりはこの国ではあまり見られない格好だったし、肌はすべすべしていて姿勢も良いし。どこかの貴族令嬢だったとしてもおかしくないわ。平民だったとしても富裕層でしょうね」




 ヴィオラ夫人にそう言われても、ピンと来なかった。いつになったら記憶が戻るのだろう? それに深い不安を覚える。


 ここのお屋敷ではご主人のヴィオラ夫人を始め、通いの使用人であるジャック夫妻や、侍女のナタネやイリス、庭師のゲッカ、料理人のロータスなど皆が優しく接してくれる。


 そのせいで屋敷での暮らしが長くなるほど、居心地が良すぎて、ここから出ていく日が嫌になりそうだ。




「ミュゲちゃん。どうしたの? 何か悩み事?」


「ゲッカさん。あ、いけない」




 庭の花に水をあげようと、ジョウロに手押しポンプから引いた水を入れていたら、ジョウロから水が溢れていた。ゲッカはそれを見て苦笑する。




「ごめんなさい。これじゃお手伝い失格ね」


「そんなことないよ。ミュゲちゃんが水やりを毎朝、してくれるから花たちも喜んでいる」




 ゲッカはこの屋敷で庭師をしていた。剪定をしている彼の傍らで、花壇の花へ水やりをするのがわたしの日課となりつつあった。


 始めは単なる客人でいるのが申し訳なく、わたしの出来る範囲で何か手伝えないかと申し出たのがきっかけだった。ゲッカは、




「ミュゲちゃんは、ヴィオラ夫人のお客さまなのだから、のんびり過ごしていれば良いんだよ」




 なんて言ってくれるが、上げ膳据え膳の状態でいるのに申し訳ない気持ちが沸き立って、落ち着かなかった。わたしは人に傅かれる生活に慣れてない気がする。




 人にお世話されていると、有り難いと思うよりも、申し訳なさが先に立った。




 この屋敷の女主人であるヴィオラ夫人は、わたしに無理強いすることはない。記憶を思い出すきっかけの一つになればと、わたしが心に留めたことや、求めたことには応じてくれていた。使用人の皆もわたしを慮ってくれるし、優しさが目に染みる。




「ミュゲちゃんは、良い子チャン過ぎるね」


「ゲッカさん」




 このお屋敷に勤めている使用人達は、みな自分の親ぐらいの年齢の人達が多い。自分と同じ世代と言えば、このゲッカと、料理人のロータスぐらいなものだ。


 ゲッカはわたしを初めに発見したということもあり、何かと気に掛けてくれていた。ロータスは、焦げ茶色の髪に緑色の瞳をした人で、普段から調理場にいるせいか、あまり交流はなかった。




「何も思い出せない状態でさ、イライラしてこない? 嫌にならない? 周囲に当たりたくならない?」


「そんな風に考えたこともなかったです」


「ほらね、そういう所が良い子チャンなのさ。きみがもっと我が儘で、悪い子だったならねぇ」




 ゲッカの意味深な言葉が気になった。少しだけ気に障った。




「何が言いたいのですか?」


「もう少し、気持ちを楽にして良いんだよって話。きみは皆の顔色窺っているでしょう?」


「駄目ですか? だって自分が誰だか分からないし、ここでは皆さんに色々とお世話になっているから少しでも、恩を返せたらって思って……」





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