44話(完結)・ただいま
実の両親が驚くくらいに、彼は私達夫婦に馴染んでいたようだ。さくらは「あの子をよろしくね」と、何度も頭を下げてきた。こちらも「こちらこそ」と、頭を下げまくっていて、最後にはお互い泣き笑いの状態になってしまった。
あの子が来てから、夫婦二人きりの生活ががらりと変わった。ノルベールと結婚して3年目に、彼から自分に子種がないと告白されてから、これから先の人生は二人きりと覚悟していた。愛する人との生活に不満を抱いたことは無いけど、ちょっぴり子供に恵まれたさくらを羨んでいた。
それなのに子供が出来た。自分達を親にと望む子供が来てくれた。それは私達をどんなに喜ばせたことか。
彼を養子に出したさくらや、フィルマンの決断は相当なものだっただろう。あの子のおかげで人生が賑やかなものになった。さくら達にはそこも感謝している。
今までの人生に大満足している。
あの世に渡ったら、真っ先にノルベールに会いに行こう。そしてフィルマン、さくらと顔を合わせて再会を喜び、色々と語り合おうと思っている。あの世に逝ったら、この世の柵とか時効だよね?
皆に会うのが今から楽しみだ。
あ、でも、天空の国の住人はこの世のことは記憶していない? 私のこと覚えていないかな? 私の方が皆を忘れてしまう? それは悲しいな。
──ユノ、馬鹿だなあ。俺がきみを忘れることなんてあるわけないだろう。
「だれ? ノル?」
気が付けば私の前に、若い頃の凜々しい姿をしたノルベールが立っていた。
「迎えに来たよ。お姫さま、お手をどうぞ」
「ノル」
しわくちゃの手を彼に伸ばすと、その手から皺が消え、はりや艶のある白魚のような手に変化していた。
「ユノ、綺麗だよ」
「そんなことないでしょう? もう、しわくちゃのおばあちゃんなのに……」
「見てご覧」
ノルベールがどこから取り出したのか、手鏡を出して来て見せてくれた。そこに映るのは若かりし頃の自分の姿。
「これって……」
「きみだよ。若かりし日の姿で亡くなった者は昇天する。天空の国の住人として、きみは迎え入れられた」
「これからはあなたと共にいられるの?」
「ああ。それに俺だけじゃなくてみんながいる」
ノルベールの手を掴むと、目の前が明るく開けて、そこにはさくらやフィルマン。お祖母さまに両親がいた。皆が笑顔で待っていた。
──お帰りなさい。ユノ。
私は皆の元へ、ノルベールと手を繋いだまま駆け出した。