43話・胎内記憶?
「ありがとう。ユノ。フィルは喜んでくれるかな?」
「もちろんよ。自信を持って」
「うん」
目映いばかりの彼女の笑みが羨ましかった。その日は帰宅してさくらの妊娠を伝えると、ノルベールも喜んでくれて、久しぶりに会話が弾んだ。
その一方で、その日から私の心にシミのようにある思いが湧いて来る事になった。
──私達にも子供がいたらどうなっていた?
今回のことはどうしても気になって仕方なかった。子はかすがいとも言うし、夫婦の間で会話がなくなっても子供がいたら少しは変わっていたのでは無いかと。
さくらの段々と膨らんでいくお腹を見る度に羨ましく思いながらも、どうして自分には──。と、複雑な思いが横切るようになった。
このまま晩年はノルベールと二人寂しく生きて行くことになるのか。ノルベールを看取るのが先か、自分が逝くのが先かと夜、余計なことを考えてしまい、寝付けなくなってもいた。
──あの頃は、考えすぎていたのよね。
そのように考えていたのを、フィルマンはお見通しだったのだろうか? それとも子供達に会いに来て、寂しそうに去る私のことをさくらが気にしていたとか?
彼らの次男が膨大な魔力保持者だと分かって7歳になると、フィルマンがその子を連れて来てノルベールに弟子入りさせた。その子は利発で、母親に似たのか気が優しかった。初めは転移ドアを使い、ペアーフィールドの屋敷から通ってきていたけど、彼が12歳くらいになると、「ここに住みたい」と、言いだし、同居することになった。
彼は実父よりもノルベールを尊敬しているらしく、かなり傾倒している部分もあった。そこにさくらは寂しいものを感じていたようなのだけど、二日に一度の割合で家に帰らせていたら、「向こうは騒がしすぎる。僕にはここがあっているようです」等と言い出し、フィルマンとどのような話し合いをしたのか、 翌年には我が家の養子となることが決まっていた。
さくらはため息をつきながらある話を聞かせてくれた。
「あの子が2歳くらいの頃だったと思うけど、変なことを言っていたのよ。僕はね、本当はね、この家に生まれる予定では無かったって」
「2歳の子がそんなことを?」
「何でも私のお腹の中に入る前には、空の上にいたって言うの。そこから下を見ていて、自分の母親になって欲しい人を見つけて、その人のお腹の中に入ることが出来たらしいのだけど、あの子はユノのお腹に入る予定だったと言うのよ」
「凄い話ね。まるで胎内記憶みたいじゃない?」
「ユノもそう思う? 私もそう思ったのよ。それで何故、ユノのお腹に入れなかったのか聞いたら、道が閉ざされて入れなかったと言うの。それで2番目に良いなと思っていた私のところに来たと言っていたのよ」
「そうだったの」
「でも、それで納得したの。あの子はどこか冷めた部分があって、私が産んだ子のはずなのに、余所余所しい感じがあったから」
2歳児なのに母親に気を遣っていたのよ。信じられないでしょう? と、さくらは笑って見せた。
「あなた達のもとへ行ったらあの子、笑うことが増えたし、本音で語っているし、ああ、親子なんだなぁって思ってしまったわ。フィルもびっくりしていた」