42話・走馬灯が過ぎる
現世での生が尽きようとしているからだろうか。今までの事が走馬灯のように目の前に現れては消える。
7歳で知った転生生活。あの前世で読んだ漫画の世界だと知った時には驚いたし、自分が悪役令嬢でヒロインを虐める側だと知りショックを受けた。でも、絶対に悪役令嬢にならない! ヒロインを虐めないと誓って生きてきたせいか、あの漫画のような断罪されて一人寂しく修道院行きは免れた。
そればかりか心優しい息子に、気立ての良いお嫁さん、そして何より可愛い孫達にも囲まれるなんて、ノルベールと二人で暮らしていた頃は、想像もしていなかった。
お祖母さまはさくらがペアーフィールドに嫁いでから1年後に突如亡くなった。普段と変わりない様子で、森に散歩に出かけて行き、帰ってきてから「少し疲れたから休むわね」と、言って自室のカウチソファーで横になったまま帰らぬ人となった。その寝顔は夢でも見ているのか微笑んでいたそうだ。
葬儀の際に、0羽根の騎士だったロータスから詳細を聞き、後悔した。お祖母さまにはその頃、同居の話を持ちかけていたのだけど、お祖母さまは頑なにサクラメント領から移ることを拒んでいた。それで私達が転居する事まで決めていたのに、その計画半ばでお祖母さまは逝ってしまった。もう少し早く話を持ちかけていれば……と、思えてならなかった。
ロータスは「ヴィオラ夫人は眠るように逝きました。きっと今頃天空の国で楽しくお過ごしでしょう」と、言ってくれた。
この国の国教である蒼天教では、人は死んだら現世の記憶は消されて、天空の国の住人として暮らしていると伝えられている。
だから葬儀では滅多に人は泣かないし、亡くなった人物は与えられた人生を生きたとして褒め称え、笑い合う。しかし、前世の記憶持ちである私や、ノルベールはどうしても目頭が熱くなってしまい、泣きそうになるのを堪えることしか出来なかった。
お祖母さまが亡くなったことで、私達夫婦に陰りが出て来た。ノルベールは考え込む事が増え、夫婦の間で会話も少なくなってきていた。そんな私の癒やしはさくらで、彼女の元へ夫の研究室にある転移ドアを使って通うようになっていた。
するとさくらの体の異変に気が付いた。さくらはもともとほっそりしていたが、段々と体に丸みが帯びるようになってきて、ある日、会話中にトイレに駆け込む彼女を見て確信した。
「さくら。あなた、妊娠したんじゃない?」
「えっ?」
私の言葉でまさか? と、彼女は半信半疑だったけど、すぐに主治医を呼んで調べてもらったらお目出度だった。
「おめでとう。さくら」
彼女は照れくさそうな顔をしていたが、私からお祝いの言葉を聞いて涙目になっていた。