40話・その後
その後、さくらはフィルマンと結ばれてペアーフィールド領主夫人となった。領民に気さくに声をかける夫人は早くも領民に慕われ、領主さまに大事にされて3男1女を設ける。四人も子供を産んだわりに若々しく、少しだけヒロインっていいなと愚痴りたくなったのは内緒。
彼らの次男が後に膨大な魔力保持者だと分かり、夫のノルベールの元へ弟子としてやってきた。その後彼は養子となった。
その彼はさくらに良く似ていて親孝行だった。「お義父さん、お義母さん」と、呼んで慕ってくれるだけで嬉しいのに、可愛いお嫁さんを連れて来て、気が付けば三人の愛らしい孫に囲まれていた。
ノルベールと結婚したことには後悔していないけど、このような未来は考えてもいなかった。ノルベールとずっと二人きりで生涯を終えるものと思っていた。それが孫に囲まれて騒々しい日々を送るなんて。想像もしなかった現実がここにある。
「おばあちゃま。なに、つくっているの?」
「ビーフシチューよ」
「あたしもてつだう」
この屋敷にも料理人はいるが、このビーフシチューだけは私が自ら作っていた。ノルベールに初めて作った時に「こんな美味しいもの、初めて食べた」と、嬉しい感想を述べてくれたからだ。
それ以来、ビーフシチューだけは自分で作るようにしている。
「じゃあ、マリアにはジャガイモの皮むき手伝ってもらおうかしら?」
「うん」
孫娘のマリアは現在、7歳。私が7歳の頃には王宮に興味がでてきた頃だったけど、彼女は料理に興味があるようだ。母親も商人の娘のせいか、身の回りのことや、簡単な家事は自らしたりするので、娘が料理に興味を持っても他の特権階級者にありがちな「そういったことは使用人がすること」等と言って止めるような事はしなかった。
理解ある母親のおかげでマリアは7歳でありながら、何品か料理を作れるまでになっていた。
「おばあちゃま。この後、どうする?」
「そうねぇ」
聞いてくる彼女の瞳は好奇心で輝いている。この子には私が教えることはもうないような気がした。本格的に誰か先生を付けた方がいいかも知れない。
後にこの子の兄二人は、長兄は騎士団入りして、次兄は母親の実家の商会を継いだ。そして私の隣にいるマリアは料理研究家として、その名を国内外に知られていくことになる。