38話・さくらからの手紙
「陛下は完全にお飾りとなる。今までも執務の方は宰相らに丸投げだったから何も問題ないけどな」
ノルベールのその発言で察した。陛下は生かされているだけで、後継者である王子さまが成人して、王位を譲位させた後には命を絶たれるだろうと。陛下は好きにやり過ぎた。他人から悪意を買いすぎた。陛下には学習能力がなかったのだろうか? 残念でならない。
すぐ身近に反面教師となる父親という存在があったのに。
その点、フィルマンは前陛下の血を引きながらも、彼らと同じ道を辿ることはなかった。その差は何なのだろう? 育った環境? 立場? 前陛下と離れて暮らしていたから悪影響を受けずに済んだ?
そのおかげでフィルマンは、歪んだ王家に産まれながらもまともな人間となった。それは王宮の者達にとっても、この国にとっても僥倖と言えると思う。
彼は表向き一領主でありながら、強い影響力や発言力を持っている。そのおかげでこの国は無能な陛下からに食い潰されずに済んでいるような気もする。
今回色々とフィルマン主導で調べを進めた結果、陛下の非道な行為も明らかになって、後継者を早急に定める事態となったらしい。
無駄がない男だ。あとは彼自身の幸せをと願わずにはいられなかった。
それから数日後。さくらから手紙が届いた。さくらとは文通をしている。彼女はサクラメントのお屋敷の皆に良くしてもらっているが、こちらの世界に来て心細いのもあり、郷里の仲?でもあり、元日本人だった私と気が合い、今では何でも語り合えるほどの仲になっていた。
当初はこちらの世界の言語は分かるけど、話せるだけで文字は書けないような事を言っていた彼女に、お祖母さまは絵本を買い与えて、それを読みながら文字を覚えさせていた。それでも不安を覚えているらしい彼女に、私は文通を持ちかけた。
初めはたどたどしい文字で書き連ねていた文面が、段々と慣れたものへと変化していき、内容も分からない事に関しての質問が多かったのが、今ではサクラメントで起きた出来事や、流行っているもの、お屋敷の人達の日常など面白可笑しく書かれているので、彼女からの手紙がより一層、楽しみになっていた。
今回は何だろうな? と、思っていたら心待ちにしていた報告があった。その一文を読んで私はソファーから立ち上がった。庭で花に水やりをしているノルベールの元へと急ぐ。
「ノル!」
「どうした? ユノ」
「さくらが……!」