11話・お世話になります
わたしは心配になった。このヴィオラは人が良すぎるのではないだろうか?
一人暮らしをしている状況を素直に話してしまったりして。もしも、わたしが悪い人ならばそれを利用しかねないと思う。
わたしの心配をよそに、ヴィオラは微笑んだ。
「記憶を失っていても、そうやって他人を気遣う事の出来るあなたが悪い人のはずはないわ。そうね、あなたのことを孫の夫に捜索してもらえば、すぐに名前や家族のことなど判明するはずよ」
「孫娘さんの旦那さまは警察の方ですか?」
「警察?」
「あの。違いますか?」
捜索ということを聞いて、「警察」という言葉が口を突いて出た。自分でも驚いた。ヴィオラは「ケイサツ? 聞いたこともないわね」と、呟きながら孫の夫の職業について教えてくれた。
「違うわよ。この国一番の腕利き、魔法使いよ」
「魔法使い??」
魔法使いという言葉にピンと来なかった。警察に関しては漠然としてだが思い出せた。自分が住んでいた所に、警察という職種があったことぐらいの知識は思い出せた。
でも、魔法使いという職種はなかったような気がする。
「ただね、ここは孫達の住む王都からは遠く離れているから、馬車で一ヶ月ほどかかるの。だから様子を知らせるのに一ヶ月。向こうからの返事を待っても二ヶ月はかかるわね。それまで私の相手をしてのんびり待てるかしら?」
自分の記憶が戻るにはどれぐらいかかるかも分からないわたしは、その件はヴィオラにお任せする事にした。
「ご迷惑をおかけしますがよろしくお願い致します」
「迷惑だなんて思ったら駄目よ。あなたは記憶をなくして心許ない状態なのだから。いくらでも私を頼ってくれたらいいわ」
「ありがとうございます」
自分が何者か分からなくて不安な一面はあるが、こうして優しい人に出会えた事にだけは感謝した。