37話・陛下は表舞台に上がることはないらしい
しばらく経って陛下のお子様が公開された。驚いた。隠されたお子様がいたなんて。と、言ったら、ノルベールが複雑そうな顔をしていた。
「どうして今まで存在を隠していたの?」
産まれた時にお披露目すれば、王妃だってお茶会で陰口など叩かれずに済んでいたのに。と、言えば、ノルベールがため息をつきつつも、
「実はその王子さまは、陛下が他の女性に産ませた子だ」と、明かした。
「今まで公開を避けてきたのは、陛下がその王子さまを害さないとは限らないからだ」
「何で? 自分の子を害する?」
陛下は女性には手が早いくせに、子供までは望んでいなかったらしい。その為、妊娠が分かると相手を処分しようとしていたが、それを誤魔化して宰相が保護してきたらしい。さすが屑だな。父親の血を引いている。
一向に王妃が身籠もらないのは、王妃が石女なのではなく、流産を繰り返して子が望めない体になったそうだ。その王妃を慮って初めのうちは、陛下は甲斐甲斐しく王妃の機嫌取りをしていたが、王妃が二度と子供が産めなくなったと知ると、それを理由に掲げて派手に女遊びを始めたらしい。
言い寄る女性の身ならず、自分好みの女性を見つけると女官だろうが、高位貴族令嬢だろうが寝室に連れ込んで、強引に事に及んだ。
大概の女性は泣き寝入りして、陛下の言うなりになったが、なかには相思相愛の許婚がいた為、相手の男性に操をたてて命を絶った者もいたらしい。
厚顔無恥にも陛下は、それを自分の好意を仇にする好意だとして相手の実家を叩こうとしていたらしいが、それを宰相に知られて、現在は密かに監禁されていると聞いた。「もう陛下は表舞台に立つことはないだろう」
「じゃあ、フィルが次の王に?」
「いや、その為の跡継ぎさまの公開だ」
それを聞いてがっかりもし、安心もした。もしかしたら陛下がその座を退いたなら、王兄のフィルマンがその座に返り咲くのではないかと一瞬、期待してしまったから。
フィルマンは優秀な男だ。現王よりもその座に相応しい男だと思う。今までは婚約解消の一件が尾を引いて、貴族達から一線を引かれていたが、王家の不祥事を聞く度に誰もが思ったはずだ。
──フィルマンさまが陛下だったらと。
王子の頃から、今の陛下は兄であるフィルマンと見比べられてきた。自分達同様に《棚ぼた陛下》と、揶揄していた者も結構いる。
「あいつはさくらを大事に思っているからな。厄介事は避けたいだろうよ」
「そうね」
フィルマンが王になれば、必然とさくらは王妃となる。そうなると大変だ。さくらはこの世界で生まれ育った訳でもなく、貴族でもない。それがいきなりこの国の女性の頂点に立つと言うことはかなりの無理がある。
もしかしたらさくらを愛人の座において、正式に王妃を娶らなくてはならない状況に追い込まれるかもしれない。
フィルマンは、さくらを自分の唯一の運命の女性と定めてはいるが、この国の王ともなれば、周囲の思惑を嗅ぎ取り私情を挟むことは出来なくなるだろう。二人に取って悲劇しか生まない。
でも、フィルマンは王の座を望むことはなかったと、ノルベールは言った。フィルマンにとって何よりもさくらが第1なのだ。それが嬉しかった。