36話・人の命を何だと思っているのだろう
偽者サクラには会った事がないけど、気の毒な気がする。ペアーフィールドに差し向けた誰かに利用されてきたのだろう。フィルマンを骨抜きにする必要性があったのかも知れないが、あの男を籠絡するには骨が折れると思う。さくら以外の女性は、その辺に生えている雑草としか思って無いような男だし。
彼にハニートラップ要員を差し向けることからして無謀な策だったとしか思えない。フィルマンに睨まれていることからして、サクラの背後にいた者達は壊滅状態にされることだろう。
心の中で哀れな偽者サクラに手を合せた。
後にノルベールから、さくらをサクラメントに転移させ、偽者サクラをペアーフィールドに送り込んだ黒幕は、前陛下の庶子だったと聞かされた。
彼は異世界に興味があったらしい。その世界の情報を知りたさにさくらを狙ったと語ったらしいが、ひょっとしたら玉座を狙っていたのではと勘ぐってしまった。
母親が前陛下のお手つきとなり、王太后さまによって王宮を追われたことを彼自身は不満に思っていたそうだ。それは彼ら母子を守る為だったのに、その事を母親から聞かされていなかったのか、逆恨みしていたようだ。王太后さまにも手の者を送り、毒を盛っていたようだけど、それは王太后さまの周囲の者に気づかれて、サクラメントに避難する事態となったとか。
どのみちあいつは存在を知られたのなら、この世に存在していなかったのにな。と、ノルベールは呆れたように言った。王太后さまが不憫だよなとも言っていた。恩を仇で返されたようなものだ。
前陛下は無責任男だ。女性に手は早いがその責任を一切、取ろうとはしなかった。その為、関係を結んだ女性が身籠もったと知ると、次々殺めてきたそうだ。
その為、王太后さまは彼の母親が身籠もっていると知り、金子を握らせ王宮から逃したのに、逆恨みされたのだ。恩を仇で返されたようなものだ。彼はそのことを後で知り深く後悔していたと言うが、偽者サクラの殺害を命じたのは彼だ。その辺りは父親の血を引いたのだろう。
人の命を何だと思っているのだろう。自分以外の者は虫けら同然なのか? 人の命を軽々しく考えていそうな所に危険なものを感じる。危ない人間であるのは確かだ。その彼の元にさくらが渡っていたらと思うとゾッとした。
さくらは彼の手の者に執拗に狙われていたとも聞く。その彼女を救い、相手を取り押さえたのはフィルマンだったらしい。さすが優秀元王子。やることに抜かりはない。
王宮の皆もフィルマンに対し、一目置いているようで、今は一領主なのに、王子だった頃のように彼に会うと頭を垂れて、彼の意見を聞きたがる。
彼のような存在は希有なのだろうなと思いつつも、実質上は、彼が陛下のようだと感じているのは、私だけでは無いと思う。その彼に睨まれたなら、その庶子も後はないだろう。
あとはさくらが心置きなく、日々過ごせるようになればと願っている。