35話・私、やらかしていました
一刻も早く王太后陛下が見つかることを祈っていたら、数週間後、サクラメントで保護されていると、陛下の下に知らせが入った。それを聞いた陛下や、重臣らは安堵したようだ。
その知らせをノルベールから聞かされて、心の底から良かったと思いつつも、ある不安が頭をもたげてきた。
「じゃあ、王太后さまは、しばらくサクラメントにお世話になるの?」
「そうなるね。でも、大丈夫だろう? ヴィオラ夫人とは仲が良いと聞くし」
「それはそうだけど……、さくらと顔を合わせることになるわよね?」
「どうした?」
「私、やらかしている。さくらの気を惹くために、フィルマンを不憫な王子に仕立て上げて、王太后さまが継子虐めをしていたような話にしちゃったもの」
さくらが王太后さまにあって気を悪くしていたらどうしよう。二人の関係性が悪くなったら私のせいだ。
「そんなに気にすることはないだろうよ」
「どうして?」
「あれは創作物だ。さくらだって馬鹿じゃ無い。王太后陛下と直接、係わりあうようになればお人柄も分かるさ」
「そうだと良いけど……」
「それにヴィオラ夫人もいる。さくらが王太后陛下を悪く思う暇もないんじゃないか?」
「……?」
ノルベールの言葉に首を傾げたが、その後、私の手元に届いたお祖母さまからの手紙で二人の詳細が知れた。何と王太后陛下の希望で、さくらは陛下のお話の相手を務めていると言う。時々、年代の差か衝突しあうこともあるらしく、その度に王太后陛下が「言い過ぎてしまったわ。彼女に嫌われたらどうしよう」と、泣きついてくるそうだ。
王太后さまの意外な一面が可愛らしかった。さくらはこんなにも気に入られているようだ。心配いらないようで安堵した。
「だから言っただろう? 大丈夫だって」
「そうね」
長椅子に座ってお祖母さまからの手紙を読んでいたら、横から覗き込んできたノルベールが言う。私の心配は杞憂に終わった。
その一方で不穏な動きがあった。偽者サクラが殺されたのだ。死因は服毒だったらしい。偽者サクラはノルベールが異世界召喚を行った日に、自分がサクラだと言ってフィルマンの前に現れた人物だ。
恐らくノルベールの異世界召喚をどこからか聞きつけた者が、さくらの情報を得て偽者サクラを作り上げて彼の前に登場させたのだろうけど、彼らは重要なことを知らなかった。
フィルマンはさくらと面識があるということ。一目で別人だと分かった彼は相手にしてなかったようだが、偽者サクラは彼の気を惹こうと、あれこれしていたようだけど、逆にその背後を調べる為に、フィルマンに利用されていた。
彼女は背後の者になかなかフィルマンを靡かせる事が出来ないので、始末させられたと思う。可哀相なハニートラップ要員だった。さくらを名乗ったことですでにフィルマンの怒りを買っていたというのに、彼女とその背後の者達はそれに気付かなかったのだから。
でも彼女が亡くなったことで進展はあったようだ。偽者サクラを差し向けた相手が分かり、その者達に関しては自分が直接、問いただすからと、ノルベールや騎士団長には手出し無用とフィルマンが伝えてきたらしい。
フィルマンはさくらの事となると容赦がない。相手はとことん追い詰められそうな気がする。