32話・同情はしません
「ランシーノ男爵夫人、出てお行きなさい。もう二度とこのお茶会に顔を出さなくて良いわ」
「そんな! テンバー侯爵夫人。どうしてですか? この人は嘘をついているのですよ」
彼女はランシーノ男爵夫人というらしい。ランシーノ夫人は真っ赤な顔をして反論した。テンバー侯爵夫人は、呆れたようにため息をつき聞いた。
「アガリー子爵夫人は嘘などついておりませんわ。今は亡き先代の王は、どういった経緯で王位を継がれたかご存じ?」
「どうして先代の王のことなど? 確か王太子だった兄王子が亡くなったとかで、急遽、弟王子が王位を継がれたのですよね?」
テンバー侯爵夫人に聞かれて、ランシーノ男爵夫人は馬鹿にしないで下さい。それぐらい分かりますと答えていたが、不服そうだ。
「その兄王子のお孫さまが、こちらのアガリー子爵夫人でしてよ。そのことは王家も認めております。陛下とアガリー夫人ははとこの間柄になられます。不敬があってはなりません」
「嘘でしょう? そんなこと聞いてない」
「聞いていようがいまいが、あなたの言動は見苦しいわ。我が家が面倒を見ている男爵家に頼まれて、お茶会に招いたけど礼儀も知らないなんて。恥さらしだわ。出てお行きなさい。詳細は追って知らせるわ」
「あの。お許しを……。私、知らなくて……」
「常識を知らない御方とは話したくもないわ。顔も見たくないからサッサと出ていってね」
テンバー侯爵夫人は徹底していた。彼女をねめ付けると青ざめた顔で出て行く。同情はしない。自業自得。彼女が招いたことだ。
このお茶会の主催者であるテンバー侯爵夫人がこれ以上、この話はしないようにと通告する。両陛下の話題に触れることはある意味、禁忌だ。心ないことを言って、貶める要素でも王家側に伝われば、本人だけではなく一族郎党が王家への不敬罪を問われて処罰されかねない。
やれやれと思いつつ、再びティーカップを持ちあげると、周囲の夫人達は思い思いに、別の話題を席の隣り合った夫人と交わし始めた。