31話・たかが子爵夫人ですが、それが何か?
貴族女性は嫁いだ先で子に恵まれないと、婚家で良い顔はされないし、3年経っても子供がいないと離縁されることも多々ある。
王家ともあれば、それは特に強い傾向だろう。血筋血統主義なところがあるから尚更だ。王妃は結婚してから10年以上は経っている。両陛下には離婚は認められていない。例え仲が悪くとも生涯、連れ添わなくてはならない。
だから印象操作が必要となる。国民にとって両陛下は雲の上の人。自分達のお手本となる人達だ。もしも陛下が子供の産めない王妃を蔑ろにしていたと知れば、国民からの評判は下がり、王家に批難が殺到するだろう。
それにしても彼女の発言は、子供の産めない女性を馬鹿にしたもので聞いていて不快にしかならなかった。
「実は陛下のご寵愛を受けているシールズ嬢は、私の母方の従妹になるのです。彼女とは仲が良くて陛下のことを色々聞かされています。大概惚気話であてられていますけど」
彼女は先ほどから皆の注目を集めて、何がしたいのかと思っていたが、どうも陛下の寵愛を受けている相手が自分の従妹であることが誇らしいようだ。
「アガリー夫人はどう思われます?」
相手にするのも馬鹿馬鹿しいと、黙ってお茶を飲んでいたら、突如彼女が話を振ってきた。皆の目が向く。何故、私? 王妃さま同様に子供が出来ない私に意見を? ってこと?
彼女はニヤニヤしていたが、他の夫人達は顔色を変えた。主催者のテンバー侯爵夫人が席を立ち上がろうとしていたが、それを目で制した。
「そうですね。皆さまの心配は当然のことだと思われますわ。でも、この件に関しては、両陛下の問題かと思われますので、部外者の私がどうこう言えるものでもないかと思います。それに先ほどから、シールズ伯爵令嬢のお名前を披露されていますけど、それは王家の許しを得てのことですの? それともシールズ伯爵令嬢がそのことを広めて欲しいが為に、あなたに吹聴するように頼まれましたの? これは由々しき問題ですね。陛下にご忠告申し上げます」
「なぜ、あなたから偉そうに言われなくてはならないの?たかが子爵夫人でしょう?」
「一応、夫の身分はそうですが、私は陛下とは血の繋がりがありますのよ」
「嘘よ。そんな話、聞いたこともないわ。あなたは未婚で子供を産んだ節操のないサクラメント領主の孫娘でしょう?」
周囲がざわつく。彼女は知ったぶりで言う。自分の失言に気がついてなさそうだ。主催者のテンバー侯爵夫人が黙っていられなくて、とうとう私達の座る席の近くに来た。