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10話・わたしは記憶喪失



 わたしは森の中で寝転がっていたらしく、着ていた服は泥や土が付着していた。ヴィオラは屋敷の中に入ると使用人らしき中年女性に命じて、一枚のドレスを持ってこさせた。




「孫のユノのドレスが残っていて良かったわ。ユノはあなたと背丈が同じくらいだと思うから、大丈夫かと思うのだけどどうかしら?」


「大丈夫です」




 夫人の手を借りて着たドレスは、あつらえたようにピッタリあっていた。多少、胸回りが緩い気がしたが、それは仕方ない。


 恐縮にも替えのドレスをお借りして、着替えを済ませると老齢の医師が呼ばれて、診察を受けた。




「こちらのお嬢さんは、記憶喪失のようです」


「やはりそうでしたか」


「先生。わたしの記憶は、いつぐらいに戻りますか?」




 医師の見解にヴィオラは頷く。わたしの問いに、医師は首を横に振った。




「こればかりはなんとも言えません。明日になるか、それか数年後になるかどうか、はっきりしたことは分かりません。あなたがどういう状態で記憶を失ったのか、分からないので判断のしようがないのです」




 先生に尤もなことを言われて、わたしはがっかりした。自分としては焦りのようなものがあった。自分が誰であるか早く思い出した方が良いような気がした。それなのに何一つ、思い出せない。




「あなたも不安かも知れないけど、焦りは禁物よ」


「はい。ヴィオラさま」


「あなたが自分の名前すら分からないのは不便ね。そうだわ。仮の名前として当面の間は『ミュゲ』と、言うのはどうかしら? あなたを見つけた時、スズランの花の輪の中にいたのよ」




「そう言えば声をかけてくれた時に、そんなところにいると妖精に攫われるとか、何とか言っていましたよね?」


「ああ。それはこの地方に伝わる話で、花のサークルの中にいると、妖精に連れられて行ってしまうと言われているの」




 あなたはスズランの花の輪の中にいたから、驚いたわとヴィオラは微笑む。スズランの花。森の中。記憶を探ろうにも何も思い出せない。






──わたしは一体、誰なのだろう?






 両手を見つめて頭を抱えたくなったわたしを、ヴィオラは気遣うように言った。




「焦らなくても良いわ。私は夫を亡くして気ままな隠居の一人暮らしだし、気を遣う相手もいない。使用人は通いの者が数名のみ。良かったらあなたの身元が判明するまで、この屋敷で一緒に暮らさない? 私のお話相手になって欲しいわ」




「ちょっと待って下さい。見ず知らずのわたしにそこまで話して大丈夫ですか? 素性も知れないのに。森の中にいたということは、もしかしたらわたしは何か罪を犯した者かも知れません。それで何かがあって国を追われでもして記憶を無くし、倒れていたのかも知れませんよ」





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