26話・彼女なら明かしても問題ない
横槍さえなかったなら、フィルマンとさくらは順調に出会えていた。そう思うと私達はやり切れない思いがした。
それを聞いてさくらが聞いてきた。
「ノルベールさんの、異世界召喚を邪魔した人には心当たりがあるのですか?」
「何となく察している相手はいる」
「ノルベールさんのライバルですか?」
「いや、ライバルにもならない羽虫だ。耳元で煩く騒ぎ立てる」
「まるでハエか、蚊のような存在ですね?」
「その通りだ。煩くて叶わない」
「さすがね。ミュゲさん。適切な表現だわ」
さくらの中でノルベールは、偉大な魔法使いさまになっているらしい。そんな偉大な魔法使いのライバルにも及ばない相手を、彼女は「ハエ」や「蚊」と、言い放った。
こちらの世界にも「蠅」や「蚊」は存在する。こちらの世界でも嫌われもので、皆に嫌がられている。そんな存在とノルベールの邪魔をしてくる者達を、一緒くたに考えるさくらが可笑しかった。
そればかりか頭の回転も速かった。
「先ほどノルベールさんはヴィオラさまに、わたしのことをミュゲと、これからも呼んで欲しいと言っていましたね? もしかしてわたしがサクラだとバレると、困ることになりそうですか?」
彼女の問いに、ノルベールは慎重に答えていた。
「きみは頭の回転が早くて助かるよ。きみにはしばらく記憶喪失のミュゲのままでいて欲しい。この部屋に来る前にヴィオラさまには協力を仰いできたが、記憶が戻ったことを他の者達には知られないようにしてもらいたい」
「それは何故ですか?」
「俺はこの屋敷の中に、今回異世界召喚を快く思わなかった者の配下か、その協力者がいると考えている」
彼女なら明かしても問題ないと思ったのだろう。ノルベールは、この屋敷にスパイがいることを打ち明けた。
「きみはこの屋敷の者達に良くしてもらっていたようだから、そのような人達を疑うのは心苦しいだろうが。気を付けて欲しい。俺はどうしてきみがこのサクラメントに、移動出来たのか気になっている」
ノルベールはこれからのきみの行動次第では、狙われかねないと忠告した。
「今回の事は誰かが意図的に、きみをここに招き寄せた気がしてならない」
「そんな……! 一体誰が? 何の為に?」
「相手の目的はよく分かってないが、狙いは恐らくきみだと思う」
「わたしですか? わたしは何も取り柄が無い女ですよ。ただ、異世界から来たってだけで」
異世界召喚で見知らぬ場所に来て、記憶を取り戻したばかりの彼女に話すには酷なことにはなるが、知らないままでいるよりも用心を促す為に、伝えておいた方が良いとノルベールは思ったに違いない。