25話・お詫び
その晩。夕食後に私はノルベールと共に、さくらの部屋を訪れていた。彼女にはまだ伝え切れていないことがあったし、何より彼女にしなくてはならないことがあった。
謝罪だ。異世界召喚した彼女を危険な目にあわせかけた。記憶喪失となって見知らぬ場所に放置された彼女はどれだけ心細かったことか。本当に申し訳ない。夫婦で頭を下げると、さくらは止めてきた。
そればかりか記憶を失ったのは確かだけど、その事で私達を責める気はないし、自分は運良くサクラメントの心優しい人達に保護されて、良くしてもらったし恵まれている。だから謝罪は入らないと言ってくれた。
さくらは本当に良い子だ。フィルマンは見る目があると思う。どうしたらこんなに良い子を見つけられるの?
「あのゲームは、こちらの世界をモデルに作ったとアガリーさまは言っていましたが、良く出来ていて感心しました。あのストーリーには結構、泣かされましたよ。フィルマンさまが不憫に思われて仕方なかったです」
「きみがしていたゲームのストーリーは、ほぼ実話だ」
「では、出ている人達もほとんど──」
「本物だ。きみに警戒してほしくて情報を盛り込んでいた」
さくらは、ノルベールが送り込んだ乙女ゲームに夢中になっていたらしく、ストーリーに感動したと伝えてきた。ストーリーを練ったのは私だ。誇らしい気持ちになった。
「私もちょっとだけ手伝ったのよ。この人を入れた方が良いとか、案を出したの」
と、言ったら、さくらは驚きつつも、ある事を指摘してきた。
「ゲームには、あなた方夫婦は出て来なかったわね」
「それはあえて削除したの。制作する自分達が登場するのは恥ずかしい気がしたから」
そこはすごく気にした。自分達も登場人物として盛り込むかどうか。悩みに悩んで入れなかった。だって、もしもよ、ノルベールを登場させて、さくらに万が一にも気に入られたりしたら、嫌だなって思ったから。
でも、そんな心配はいらなかったみたい。ノルベールと顔を見合わせていたら、さくらが見ていた。多少、罰が悪く思ったのかノルベールが言った。
「本当は、俺が異世界召喚をした日、きみはペアーフィールドに現れる予定だった。それなのに何者かが、俺の異世界召喚中に横槍を入れた。そのせいできみは別の場所に飛ばされてしまうことになった」
「それでわたしは、このサクラメントに来る事になったのですね?」
「ああ。きみが記憶喪失になったのは、それが原因だと思う。異世界召喚とは、強力な力で引き寄せられることになる。それを弾き飛ばされたのだから、その反動で頭を強く打ったと思われる」