23話・彼女がさくらだった
「サクラと言う言葉に、何か気になるものはないか?」
「サクラ……? どこかで聞いたような?」
そう言うなり彼女は、何やら思案を始めた。
──お願い。神さま!
彼女がさくらなら、思い出してくれますように。神仏など前世からして信じていない私は必死に祈った。お願い、この世に神さまが本当に存在するのならば、彼女がさくらなら失った記憶を取り戻してくれるようにと。
長くも短くも感じられる時間。皆の目がミュゲに向いていた。すると──。
「春の季節に咲く花の。それは、わたしの名前……」
私達、夫婦にとって聞き覚えのある言葉が彼女の口から紡ぎ出された。思わずノルベールと顔を見合わせた。ノルベールは確かめるように言った。
「きみの名前はサクラか?」
「はい。わたしの名前は桜花です」
良かった。と、思うより先に驚きの方が大きかった。記憶喪失の彼女がタイミング良く、記憶を取り戻せたのは奇跡に近い。ノルベールは泣きそうになっていた。お祖母さまは驚いた顔をしていた。
「そうか。きみがサクラか。今まできみを捜していたんだ。これで良い報告が出来る」
「ミュゲさんがサクラさんだったの? 良かったわね。ノル」
これでフィルマンに良い報告が出来る。彼は必死にさくらの行方を追っていたのだ。これで安心するだろう。お祖母さまも「良かった」と、言いながら涙声になってきていた。
「きみはどこまで思い出した?」
「え──っと、ここではない世界で暮らしていた、しがないOLで恋愛ゲームをしていたら、そのゲーム機がおかしくなって、気が付けばこちらの世界にいました」
さくらは記憶を取り戻したせいか、快活に話し出した。
ノルベールはお祖母さまにここでの話は内密にと言いながら、用意周到にもこの部屋に防音魔法をかけ、さくらが異世界人であると打ち明けた。
お祖母さまはさくらが、この世界の住人ではないと知り大変驚いていた。