無知なヒロインには理由が有る
お読み頂き有難う御座います。
設定を特に細かく組んでないので、部屋を明るくして広い心で気楽にお読みください。
この、やたらパステルカラーな世界は……此処は……異世界なのかしら。そうよね。テーマパークでも無さそうだし、とってもメルヘンなパステルカラーな景色!
もしかして、私ったら……。
「私ったら、よく分からないけどゲームかラノベヒロインに輝かしく転生しちゃったのね!! 勝ちピンクに私はなる!」
「……リセ姉さん、何を命知らずで大迷惑でとんでもなく身の程知らずの変なこと言ってるの」
クルリとターンして、華麗にポーズを決めた私の名前は、リセ。
双子の妹モアと一緒に、王都にある学校へ入学する16歳! 小さな商会の跡取り娘!
この、ツヤツヤな毛先がピンク髪と……目の色は解らないな。妹がピンクだからピンクかな。
何にせよ……ヒロインぽいいい!! 妹の暴言酷くなぁい?
学校も、パステルカラーな割にはちょっと薄汚れてるけど滅茶苦茶立派だし……変なリアルね。えーと何ていうの? お城? な雰囲気の建物!
わあ、あっちのゲートったら、フワフワキラキラ豪華でファンタジー! とってもお金掛かってそう、綺麗……。
もしかしてこのゲートをくぐったら、貴族に愛される恋と希望の学校生活が待ち構えて……!!
「うおい! 何っしてんの!?」
「って、痛えーっい!」
妹が全力で腕を引っ張ってきたけど!? 何で!? いや妹力強いな! このままでは、もれなく肘の関節が抜ける!!
「何するのよおおお!!」
「其処だけは! 今も昔も金輪際、 近寄ったらダメだよ! 其処は貴族用のゲートなんだから!!」
「えっ、でも……平民と同じ学校なのにダメ、なの?」
うるるんキャピっとしたお目目を心掛けて見つめたのに、モアったら滅茶苦茶目を剝いて睨んできたよ! か、顔が鬼神と間違わんばかりに超怖い! 私とお揃いの筈のカワイイ顔が、滅茶苦茶目が血走ってて怖い!
「当ったり前でしょ! 脳みそ消し去りすぎたの!?」
「ひぅ、酷……えーと。そ、そそそそっか、貴族と平民は別れてるのか。残念。
でもなあ、ちょっとだけ迷い込んだりして、素敵なイケメン貴族のご令息? と恋に落ちちゃったり……なんてね!! お約束!」
そーんなファンタジーお約束! に引っ掛かりたいな!! ラブラブ溺愛ラノベか乙女ゲー的生活が眼の前に!
……どうやって思い出したら良いの! 攻略情報!
「何寝言言ってるの!? そんなお約束は消え失せろ!
同じな訳無いでしょ!! 彼処へ許可証無しに行くと、首バッサリ刈られるよ!?」
「怖いよおモア……ってく、首刈られ……っ!?」
首刈られるって何よ!? 近寄っただけで!? 普通にこう……もっと罰則にしても重過ぎよ! フツー、反省文的な罰とかじゃないの!? 立ち入り禁止区域でも、同じ学校内で刃傷沙汰オッケーなの!?
いやでも、妹の顔は大マジだ。冗談言ってる顔じゃない……。何ならおでこにベキベキ血管浮いてる。
「そうだよ! あの紫の服の警備兵に!! ボッキリバッサリ!!」
「え、警備兵……ヒッ!?」
もしかして、警備兵の中にも仲良くなれるキャラとか居たり……。ほら、騎士キャラ的な。あ、貴族の坊ちゃま的なイケメンが入ってくー! 仲良くなれば通してくれたり、隠しキャラだったりー?
このキュートフェイスでニコッとスマイルしてえ……。ニコッと……ニコ……。覇気で、近寄……れない、だと!? ビリビリするんですけど漫画なの!?
ダメだ、どんなポジティブスマイルを投げ掛けても凄い刺々しいオーラで睨まれる一択! きっと今一歩でも近寄ったらあのデカい武器で刺される一択!
職務に邁進してる人達オンリーで、フレンドリーなんて、居そうになかったわ。
「ぼ、ホヘフェ……」
……こ、怖い……。視線が怖すぎて、もうチラ見すら怖い。ふええとかヒロインらしく出てこない。胃から悪寒と吐き気が迫り上がってくる。
流石にゴツい大鎌やら槍やら武器持ちのフルフェイス兜軍団に、不審がられちゃあなあ。無理? もう好感度は生まれそうにない……?
せ、せめてバイザーを……バイザーを、取ってくんないかなぁ。ほら、フェイス・トゥ・フェイスが対話と友好の基本……。そして愛への前奏曲をふたりでチャリラリラーと軽やかに。
「…………」
……駄 目 だ。
視線を交わさずとも、殺気がヤバすぎる……。
こりゃあ少なくとも、滅茶苦茶不審者認定された!! どうしよう!
もう、こうなったらその辺歩いてる貴族に、私のパーフェクト可愛さを見初めて貰うしか!
「言っとくけど、貴族がこっち来ても、絶対! 相手したら駄目だからね!?」
「えっ、何で!? お近付きになれるチャンスなのに……」
「お、お近付きぃ!? ななな、何てことを!」
な、何!? そんな滅茶苦茶オバケを見るような顔で!
「それこそ駄目だよ! 止めて! 悍ましいドン底人生! 死んだ方がマシな地獄まっしぐらだよ!
貴族の最下層の妾になれって、ゴミみたいな条件の奴隷契約結ばされた子が先週出たんだよ!?」
「どどどっ……れっれれれ!?」
ど、奴隷契約……!? なっ、何でそんなに酷いの!? そんなもん結ばせるだなんて、どんな無法地帯よ! 学校の、いえ国の秩序は何処なのよ!? 許すなよ!
「んもう! リセ姉さんはどうしてそう世間知らずなの!?
貴族なんて、小金をチラつかせて幼気な何も知らないボーっとした庶民を騙すんだよ!
死ぬギリギリのラインでボロ雑巾になっても、傍若無人にコキ使って売り払う悪魔だらけなんだからね!」
どんな極悪人だらけの修羅集団なの……。怖すぎるわ貴族って……。
イメージと全然違う。高貴って何なの。セレブホホホキラキラリーンじゃないの。
じゃあ、学校で見初められるのはダメか。じゃあ、卒業後なら良いの!? それなら、普通のラブラブに発展……?
大人の恋愛なら、騙されるリスク減るもんね!
そう、自立したレディとしての大人恋愛ゲームかも! ちょっと思ってたのと違うけど悪くないわ!
「そ、それじゃ、ふ、普通にこう、貴族のお屋敷に就職とか……?」
「就職? 就 職 ぅ!?」
妹の瞳孔開いた目が怖すぎる。そんなに目を剥かないで!
最早、就職利用して玉の輿に乗りたいなんて口が裂けても言えない雰囲気だわ……。
「何言ってるの!? 偶々その辺に居た、領民でもない庶民を使用人として雇うなんて有り得ないよ。高位貴族の傍によれる使用人は、下級貴族を雇うの!
それに、成績優秀者じゃないと、スカウトなんて来ないよ」
「そ、そうなの……?」
じゃあ勉強頑張れば、貴族に見初められるチャンスが? 下剋上ラブが花開いてくる感じ?
「どうしちゃったの、姉さん。大体、ウチを継ぐ為に勉強に来たんだから、貴族にスカウトなんてされたら困るでしょ」
「そ、そうだっけ……」
「だから、貴族の目に止まらないようにテストは程々のランクを保たなきゃね! 順位とかより大事なのは、平穏な生活を送る為の健やかな命だから! 下手に上位取ると奴隷だよ! テストは貴族様をヨイショする為に手抜き! 分かった!?」
目に止まらないように程々勉強……。頑張っても報われんじゃないの、それ。
……何でそんな世知辛い事に……。折角の異世界なのに……。おお、あんなに近かった溺愛貴族ラブが遠い。遙かに遠過ぎる。
「おーい、何してんだ」
「あっ、ほらリセ姉さん! 変な夢見てないで、婚約者を大事にしなよ!!」
……婚約者……居たのか。私ったら。
そりゃ変な奴扱いされるわね。えーと、うーん?
「え、あれか。そうだね……」
「どうしたのよ、リセ姉さん。そこにいるじゃん。いつも通りツムジが爆発したみたいなゴエンがさ」
あの男子生徒ばっかの列にいる、私と同じぐらいの身長の奴が、婚約者なの?
めっちゃツムジが逆だってるな……。名前はゴエンっていうのね。
……顔は普通。イケメンじゃないけど……私、婚約者居るんだ……。それじゃ私はヒロインじゃないな……。
乙女ゲームだと、ゲームスタートしたばっかのヒロインに彼氏婚約者は居ない、よね……。相手に婚約者いる場合は、ラノベだと思う。
でも、実際居たらこう、昼ドラみたいなR18モノになりそう。ヤダ、攻略対象が安全とは限らないし、もし不特定多数なら、気持ち悪いし怖すぎる。
そんなメンタル、流石に持ち合わせてないわ。適性検査に落とされるわよね。
……うん、貴族ゲートを通過してく金髪の貴族が危険で極悪に見えてきたわ。庶民用の門は煤けてるし、パステルカラーフィルター消えちゃったな。
「ゴメンね、寝ぼけてた。
滅茶苦茶いい夢見てさ……。大金持ちでセレブで高貴なイケメンが居てウハウハ的な」
「貴族が平民にそんな生活齎す訳無いじゃん。
アレは自分や身内の贅沢生活の為に、庶民をギリギリ搾取する方だよ」
……そうなのか。そうだよね。切り捨て御免どころか、庶民を奴隷だと思ってるような危険思考の奴らは、庶民を見初めないしチヤホヤしないよね。
「よし、間に合った」
「どうしたの、モア」
妹がガッツポーズしてるのが、意味不明ね。
所で、何でこんなに貴族の事に滅茶苦茶詳しいのかしら。庶民なのに。学校のことにも詳しすぎよね。
「お姉ちゃん、行くよー」
「はいはーい。モア、何でそんなに色々詳しいの?」
……何その達観した濁った目は。
さっきから変顔酷くない? 私と勘違いされたらどーすんのよ。
「色々読んで、色々歴史を遡ったからだよ」
「歴史の勉強?」
「あれリセ、髪色変えた? 毛先のピンクがイケてるね」
「やっだーゴエンったら! カワイイでしょー」
「うんうんマジマブいってー。ゆめかわ? ギャンカワってーの?」
「……このクソチャラモジャケ野郎が義兄になるのマジ勘弁だけど、没落と命には代え難い」
いや、いい奴じゃん婚約者も!私のことカワイイって!
そうよね! よく分からん異世界でも地に足をつけて多少はしゃいで生きるべきよね! 褒め大事!
「……良かった」
「モア、顔怖いって」
それから……私達は庶民で一位になったりならなかったりの平凡な順位を守りつつ、貴族に睨まれるような大した山場もピンチもなく、卒業し。
町で2番目の大きい宿のエビマヨ亭で結婚式にまで辿り着いたわ。
1番大きいサバミソホテルにしなかったのは何でかっていうと、お式のドレスと指輪が結構高くてケチった……のも有るけど。
何だか其処、私達が式を挙げる前に、婚約者と結婚秒読みの伯爵家の令息が、恋人の庶民女子を連れ込んで婚約者が乗り込んで刃傷沙汰になったとかで。
縁起悪いから止めたのよね。
「あんなキレイな婚約者が居るのに、何で浮気したのかしら」
「あの伯爵令息、同級生らしいってー。クラス違うけどー」
「まー、貴族って怖いわー」
因みに同級生でも、新聞の似顔絵でしか知らないけどね。貴族と御縁が無いし。
「それよりモア、お見合いまた断ったんですって? この前、カフェゴマアエでいい感じになってた冒険者はどうしたのよ」
「妻帯者だから棄てたわ。クズの現地妻になる気はないの」
「そ、それは棄てて何より……。でも、シングルだって言ってたのにね」
「勘よ」
「濡れ衣ってこたぁーねーの? 義妹ちゃん」
「両手の薬指に指輪の跡が有ったわ。アレは此処から船で15分のサンバイズ島の風習。しかも重婚ね」
「お、おう……」
この、マニアック博識な妹も幸せになって欲しいのよね。
眉間のシワと薮睨みが年々酷いけど。
「人の心配は結構よ。さっさと満足のいく結婚をして我が家を盛り上げて行って頂戴。
万が一にでも、サバミソホテルのヨロメキの間に泊まって浮気して没落させたら、今度こそ祟るわよ」
そう言い残して、式に出た後妹は旅に出てしまった……。
サバミソホテルに一体何の恨みがあるのか意味不明だけど。
「……取り敢えず店開けっかハニー」
「そうね、ダーリン」
その昼に第二か第三王子が幼少期からの婚約者を罵って婚約破棄したらしいけど、私達は幸せよ!
異世界転生ではなく、妹の逆行でした。
ジャンルが迷いますが……一応恋愛してるので、恋愛ジャンルに。