表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/10

9『すべての道はログに通ず』

 ――バシュン!


「ぎゃっ⁉」


 鋭い音がしたかと思うと、クー・ローマックが倒れ伏した。

 音がした方――部屋の入口を見てみれば、


「軍警察⁉」


 軍警察官数名が雪崩れ込んでくるところだった。

 警察の1人が、電撃を受けて動けないでいるクー・ローマックを後ろ手に拘束した。


「アンタ!」


 クー・ローマックが、血を吐くような叫びを先輩に投げかける。


「ゼロスキルなんてウソじゃない! ここまで詳細な探査能力! それを裏付けるログまで調べて! 上級魔法の【探査(サーチ)】でもできっこない! 聖級魔法【万理解析(アナライズ)】でしょ⁉」


「ウソじゃねーし」


 先輩が、冷たい目でクー・ローマックを見下ろす。


「ウソよ! アハハ! 私は帝国の捕虜という扱いになる。そしていずれは捕虜交換で本国に戻るわ! そうしたら、帝国がグーハ陸戦条約で禁じられている『召喚勇者のスキルの戦争利用』をしているって事実を世界中に喧伝してやる! 今まで中立を保っていた国々も、帝国と敵対するでしょうね! ざまぁみろ! 帝国はおしまいだ!」


 ショウカンユウシャ――え、召喚勇者⁉

 あまりにも強力なスキルが危険視されて、勇者同士が戦ったら世界が滅びかけないからという理由で、モンスター退治以外に対する使用が禁じられた究極の存在、勇者。

 先輩が、その勇者だって⁉


「いかにも私は地球からこの国に拉致られてきた被害者出席番号25番だけど」


 先輩が溜息をつく。


「ゼロスキルってのはホント。アンタも知ってるでしょ? あーしがお弁当も温められないくらい、魔力が少ないってコト」


「そんな……じゃあ、本当に?」


 クー・ローマックが絶望の表情で先輩を見上げる。


「そ」


 先輩が、得意げに笑う。


「すべての道は、ログに通ず――このクソみたいな異世界で、あーしが唯一好きな言葉だ」


「王国万歳!」


 そのとき、クー・ローマックが叫んだ。

 クー・ローマックが――クーちゃんが、僕を見て、笑った。





「さよなら、楽しかった――【大爆裂(メガフレア)】ッ!」





 クーちゃんの体が光に包まれる。


「「「【物理防護結界アンチマテリアルバリア】ッ!」」」


 クーちゃんを取り押さえていた軍警察官が慌てて飛び退き、他の軍警察官たちが結界を発動させ始める――が、間に合わない!


「先輩!」


 僕は全力で走り、先輩に突進した。





 激しい破砕音。

 天地が引っくり返ったような衝撃。





 全身のあちこちが痛い。

 痛いけれど――…僕の鼻先に、何やら暴力的なまでに柔らかい何かが押し付けられている。


「ぷはっ⁉」


 息ができず、慌てて顔を上げると、


「あはは、土壇場で(かば)ってくれるとか……男の子じゃん」


 先輩の、少し照れくさそうな顔。

 と、とととということはつまり、僕の顔がさっきまで埋まっていたのは――


「うわわわわっ⁉ すみま――ぎゃあ⁉」


 背中に鋭い痛み。


「少年⁉」


 軍警察官の一人が駆け寄ってきた。


「もう大丈夫だ。【中治癒(ハイ・ヒール)】」


 じょじょに痛みが引いていく。


「ったく、人間爆弾なんて」


 先輩が溜息をつく。


「そうだ! クーちゃん――クー・ローマックは!?」


 振り返ると、クーちゃんが横たわっていた。

 軍警察の1人が治癒魔法をかけている。

 助かるかどうかは分からない。

 助かるべきなのかどうかも、今の僕には判断できない。

 (かぶり)を振って気持ちを切り替え、

 ――そうしてようやく、気付いた。


「あれ……? 何、この煙?」


 クー・ローマックの自爆と同時に発生した煙が、いつまで経っても晴れないことに。

 そしてその煙が、曰く言い難い臭い――果物が腐ったような臭いをしていることに。

 虫寄せの香木、ルヨガシムの木の臭いをさせていることに!





 ――ヴゥゥゥウウウウウ!!





「あぁ……何てこと」


 オペレータの、切羽詰まった声。


「全サーバからの応答、途絶えました!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ