6『スパイ大作戦』
先輩に対する捜査が始まった。
9時、始業。
先輩は、未だ来ず。
10時になって、先輩、ようやくの出勤。
お腹に優しいと評判の漢方茶を淹れて、優雅にティータイム。
お茶を飲みほした後、無線型オルゴールを耳にはめて、いざ業務開始。
例の、1秒に1回クリックして、ひたすらログメールを開封していく作業だ。
10時30分、先輩が席を立つ。
「行くよ、ルーくん」
後を尾けるつもりなのだ。
僕がクーちゃんに手を引かれて立ち上がると、
「ちょっと君たち!」
課長に呼び止められた。
「班ごと抜けられると困るよ」
「ごめんなさい!」
クーちゃんが怒濤の勢いで謝罪する。
「漏れそうなんです! もう本当に、限界なんです!」
「ぼ、僕も!」
「仕方ないなぁ」
オペレーションルームを出ると、スタスタと歩く先輩の後姿が見えた。
歩くのが早い――というか小走りだ。
それにしても先輩、ちっこいなぁ……座ってると分からないけど、先輩の背丈は僕より頭一つ分低い。
あ、先輩が通路の角を曲がった!
「追いかけるよ!」
「うん!」
慌てて角を曲がる。
が、
「「い、いない」」
◆
仕方なく席に戻ると、ほどなくして先輩も戻ってきた。
が、11時15分に再び離席。
僕とクーちゃんが同時に席を立つと、
「ちょっと君たち!」
と課長。
やむを得ず、僕だけが尾行することになった。
先輩はニンジャのごとくシュババババっと走り、迷路のようになっている基地内を縦横無尽に駆け巡る。
基地内は、事実迷路になっている。
敵がここまで侵攻してきた場合に備えての設計だ。
やがて僕は、先輩を見失ってしまった。
自席に戻ると、先輩はすでに戻っていた。
優雅にお茶を飲んでいる。
◆
12時になればお昼タイム。
「ルーくん」
先輩が、ちょいちょいっと僕の袖を引っ張ってきた。
めちゃくちゃ可愛い上目遣い。
「これ、温めて」
差し出されたのは、戦闘糧食シチューだ。
「自分でやってくださいよ」
「あーし、魔法使えないって言ってるでしょ?」
「電話取ってくれたら考えますよ」
「やーだよ、お昼休みまで仕事するとか。社畜か」
「シャチ? 先輩には愛国心ってものがないんですか?」
「あるわけないじゃん、そんなの」
珍しく、先輩が顔をしかめる。
「教室ごと召喚されて、閉じ込められて、拉致監禁よ? 勇者認定や聖女認定されたアイツらはまだしも、あーしなんてゼロスキル認定されて即ぽい、よ。地球に送り返せって何度言っても、それはムリ、の一点張りだし。こんなクソみたいな国、恨みしかねーわ」
また、これだ。
先輩は時々、訳の分からないことを言う。
午後も、午前中と同じ感じ。
先輩は1時間に1回かそれ以上のペースで離籍しては姿をくらました。
どこで、何をしているのだろう?
まさか本当に、バグ寄せの香木をあちらこちらに仕込んでいるのだろうか……。
◆
そんな風にして、3日が過ぎた。
状況が変わったのは、4日目のこと。