4『バグ退治(物理)』
「シュルルル!」
「うわ、ホントにいるぅ!」
カサカサと動き回る巨大なクモ――デスサイズ・スパイダーの集団を見て、僕は白目を剥く。
「行くぞてめぇら!」
「「「応!」」」
バグ討伐班班長と、班員たちの力強い声。
班長が小盾を構えて、手近なスパイダーへと吶喊する!
見事なかち上げによってスパイダーが引っくり返る。
「今だ! コイツをぶっ殺せ!」
「「「うわぁああ~ッ!」」」
結界の中で縮こまっていた若手男性職員(僕含む)が束になってスパイダーに飛びかかり、槍で串刺しにする。
死闘を繰り広げること、しばし。
やがてバグは全て取り除かれた。
「おめぇら、よく戦ったな! 帰っていいぞ!」
班長に見送られ、糸まみれになった僕たちは、とぼとぼとオペレーションルームに戻っていく。
◆
「くぅっっさ!?」
命懸けの戦いを終えた僕を、優雅にお茶を飲んでいた先輩が心ない一言とともに出迎えた。
「ひどい!」
「近寄んないでよ」
先輩が鼻をつまむ。
「せっかく東方から取り寄せた高価な漢方茶葉が台無しよ」
「このっ」
第壱サーバは無事復旧したようだ。
先輩はお手柄だ。
けど、それはたまたまだ。
ヒマつぶしに眺めているエラーログで、偶然、当の部屋で回線が寸断しているログを見つけたんだろう。
「せめて、先輩も一緒に戦ってください」
だから僕は、一抹の希望を込めて先輩に言葉を投げかけた。
「戦うのは男の役目でしょ? この世界の男って、女をやたらと家の中に閉じ込めたがるじゃない」
それはまぁその通り。
エカチェリーナ様が推進した男女共同参画とかいうナゾ政策のお陰でここにも女性職員もだいぶ増えたらしいが、それでも7割が男性だ。
「でも、魔法適正のある女性は志願して戦場に出ているじゃないですか」
「あーし、魔法使えないし」
「え、一つも?」
「そーだよ」
初歩的な生活魔法なら誰でも使えるはずなんだけど。
仕事はしない、魔法も使えない……本当に、課長ななんで役立たずを置き続けているんだろう?
――ヴゥゥウウウ!
え、また!?
「第陸サーバからの通信途絶! PING応答ありません!」
慌てふためくオペレーションルーム。
そして、
「かーちょ」
まただ。
「第参層、第肆L3スイッチと第拾弐L2スイッチ間です。バグもいますね」
「助かったよ!」
満面の笑みで先輩の肩を叩く課長。
そのたびに先輩のでっっっがばるんと揺れて、
「痛ぁーいです。セクハラですよ」