3『おっぱい先輩のナゾ』
「課長~! モーリー先輩がちっとも働いてくれないんです」
「あ~」
四十絡みの課長は気の弱そうな笑みを浮かべて、
「ジュリアちゃんはアレでいいんだよ。それに、キミの班は先月増員したから、十分回ってるだろう?」
「そんなぁ」
「かーちょ」
鈴の鳴るような、良く通る声。
先輩の声だ。
「ちゃん付けセクハラでーすよ」
「異世界世代は厳しいなぁ」
課長はなぜ、サボってばかりの先輩を叱責しないんだ?
胸か⁉ 先輩、まさかあの胸で既婚者の課長を
――ヴゥゥゥウウゥゥゥゥウゥウウウウウウ!!
レッドアラート!
「第壱サーバとの通信途絶!」
慌てふためくオペレータと、
「原因は?」
冷静に質問する課長。
「不明!」
「PINGは?」
「応答ありません!」
「サーバ班は直ちにサーバルームへ急行」
「「「はい!」」」
班員たちがドタバタと部屋を出ていった。
直後、
ジリリン!
ジリリン!
一斉に電話が!
◆
「原因は?」
『サーバ自体に問題はなさそうなんです。外観問題なし。異音も異臭もせず、エラーも吐いていません』
課長とサーバ班の会話がオペレーションルームに響く。
「となれば、次に見るべきはネットワーク。君たちはその場で待機。ネットワーク班を向かわせるよ。――ネットワーク班!」
「「「はい!」」」
繊細そうな女性職員たちが立ち上がる。
彼女たちの顔面は蒼白だ。
なんたって、今この瞬間、第壱サーバが復旧するか否かが自分たちの肩にかかってしまったのだから。
サーバが復旧しなければ何千台もの無線機が動かないままであり、その無線機に命を預けている数万の将兵たちが死に瀕し続けることになる。
「落ち着いて。とにかくしらみつぶしに断線箇所を探すしかない」
「無茶です!」
一番若い女性が、巨大な紙束を抱きかかえながら泣きそうになっている。
「見てくださいよ、この図面! こんな広大な敷地内で断線箇所を見つけ出すなんて、上級魔法【探査】の使い手だってムリです」
「泣きたい気持ちは分かるけれど、仕方がない。上流と下流に分かれて、すぐにとりかかってくれ」
「上流って、前線基地と繋がってるんですよね⁉ 敵と遭遇したらどうするんですか⁉」
「バグ討伐班を護衛に付けるよ」
「課長⁉ 俺たちゃバグを突っつく訓練は受けてますが、敵兵を撃ち殺す訓練は受けておりませんぜ」
事態は混迷を極め、電話は鳴り続ける。
混乱と緊張が極致に達し、震えるネットワーク班の女性が今にも泣き叫ぼうとした、
そのとき。
「かーちょ」
場違いに平然とした声が、オペレーションルームを貫いた。
先輩だ。
「第伍層、第壱L3スイッチと第陸L2スイッチ間のイーサネットケーブルですよ」
女性職員の手から図面を奪い取り、床の上に広げる先輩。
「ここです。バグの反応もたくさんありました。かじられちゃったんでしょうね」
「さすがはジュリアちゃん! ネットワーク班とバグ討伐班は直ちに現場へ急行! 動ける若手もバグ退治に行きなさい! ほら、クロウスくんも!」
「僕もですか⁉」
先輩のナゾの活躍に驚く間もなく、僕はバグ退治用の槍を持たされ、ヘルメットと革鎧を着込む羽目になった。