後編
早朝から図書館でルティーナはローラから貰った手紙を確認していた。
内容は今日の時刻16時00分丁度にバンバーゼ公爵家へ来て下さいというものだった。
それと必要なものは綺麗なドレスーー。
と記載されていてルティーナは分けがわからず首を傾げる。
「ドレス? どうしてお茶会にドレスがもう一着必要なの? 舞踏会ならまだしもたかがお茶を飲んでべちゃべちゃ喋るだけじゃない」
うんうんと頭を捻って考えてみたが凡人なルティーナには若き乙女達の考えなど理解すらできなかった。というかしようとも思わなかった。
もういいわ、と机に手紙を置いてルティーナは読みかけの本へ手をつけた。
(ドレスは最悪早めに帰宅して家から持って行って行きましょう)
誰もいない場所でこうしてのんびりと本を読むのは至福の時間だ。
例のアイツさえ来なければとルティーナはシリウスの顔を思い浮かべた。
不思議だとすら思える。
シリウスみたいな偉い人がわざわざどうしてこの図書館に訪れるのだろうか?
何か調べ物があるわけでもなく、ただ気ままにフラッと現れてはルティーナへ存分に話しかけてどれだけ無視されようとも気にもせずケロッとしてまた口を動かす。
正直に言って頭が痛い。理解不能なシリウスの言動にルティーナはもう考えるのはよそうと決め込むことにした。
ーー急にガチャッと扉が開く。聞き慣れた足音が室内に響いた。
奴が来た。ルティーナはローラから貰った手紙を急いで元に戻して慌てて真後ろにある本棚の上段へと背伸びをして無理やり隠した。
シリウスに見つかればしつこく聞いてくるのがオチだから。
「ルティーナどうしたんだい? そんなに肩で息しちゃって、あ! もしかして俺に会いたすぎて動悸が止まらなかったとか?」
「……ち、違います。馬鹿言わないでください! というかなんで私が殿下に会いたがるんですか」
「そりゃあ、勿論ルティーナが俺のことを心から想っているとか。はたまた俺を好きすぎるあまり恥ずかしくて口に出来ないとか」
「私がなんですって?」
「じょ、冗談だよ。ごめん、だからルティーナその両手に持ち上げている大きな分厚い本を下ろして欲しいな」
ルティーナは死んだ魚のような虚な目をさせながら両手に本を抱えてシリウスへ一歩ずつ近づいていく。
まるで殺人鬼が包丁を両手に抵抗出来ないか弱い者を襲うような恐ろしい場面のようだ。
ぎゃーとシリウスの悲痛の声が図書館に響き渡ったのは言うまでもない。
「相変わらずルティーナは手加減してくれないなぁー。さすがに何回も殴られたお陰で目の前に薄っすらと麗かな流れをした川が見えたよ」
シリウスは殴られた顔と頭をスリスリとさすりながらチラッとルティーナを見やった。
ルティーナはいつもの様に本へご執心の様子だ。
「ならもう少し殴っておけばよかったですね」
「酷くないかい? ルティーナは俺を殺したいほど嫌いなのか?」
「…………」
「ちょっとちょっと、何でだんまりを決め込んでいるんだ。ルティーナ……ルティーナ様?」
「様はやめてください。気持ち悪いです」
シリウスからの慣れない様呼びにルティーナはゾワっと体を震わせた。
ルティーナとしても普通に呼ばれる方がやはり一番しっくりくる。
それもそれで少し、いやだいぶ気になるところは山ほどあるが……。
「じゃあルティーナと変わらず呼ぶことにするよ。ねぇ、ルティーナ今日は夕方から雨だってさ傘は持ってきてるかい?」
「言われなくてもちゃんと持ってきてますよ」
「そっか、なら安心だ。可愛いルティーナが風邪でも引いたら俺は世界の果ての果てまで行って一日で治る風邪薬を貰いに行くよ」
「そんな万能薬あるわけないじゃないですか、というかちゃんと傘は持ってきていますし風邪を引くことはありません」
「うぅー、冷たいなぁ。そういえば今日のルティーナはお洒落さんだね。はっ! もしかして俺と今夜デートでも行くつもりかい?」
シリウスの何気ない物言いにルティーナは肩をビクッと跳ね上げた。
よく見ているなと心の中で感心する。
普段はシックな色味のベージュや灰色、黒色などを好んで着ているのだが今日はお茶会の事もあって先立った夏を連想させる緑色のワンピースを身に纏っている。
「少しお出掛けする用事があるだけです。それと殿下とデートだなんて絶対に嫌です」
「男じゃないだろうね?」
「ち、違います。男性とデートなんて行きたくもありませんよ」
「ならまぁ、一先ず安心かな。あ、でも雨の夜道は危ないから俺が送り向かいしてあげようか?」
ニコッと爽やかに提案されたがルティーナは手を上げてキッパリと断りを入れた。
シリウスの背中には送り向かいという名の着いて行こうという作戦がルティーナには見えたからだ。
「結構です。私だってもう子供じゃないんですから雨が降った道で転ぶなんて事も早々ありません」
「うっ、今日のルティーナは全然折れてくれないな。いいなぁー、俺もルティーナとデートしたい」
「だからデートなんかじゃありません!」
「じゃあいったい何処へ何をしに誰に会いにお出掛けするんだい?」
「わざわざ殿下に言う必要ないじゃないですか? しつこいですよ。何度言われても答えられません」
ぐるっと椅子ごとシリウスから背けてプイッとルティーナはそっぽを向いた。
これ以上聞き込んでくるなという思いも込めてだ。
けれどシリウスはルティーナの方へ回り込み逃げられないように椅子の肘おきに両手をついた。
「な、なんですか……退いてくれませんか」
「嫌だって言ったらルティーナはどうする? また俺を殴る?」
「な、にを言ってるんですか、今日の殿下おかしいですよ。早くそこを退いてください」
「退いてあげたいんだけど、俺の質問に答えてくれたらね。質問一つ目今日は何処へ行くつもりだ?」
シリウスから真剣な眼差しに、尋問をするような低い声はルティーナの心臓をドクドクと脈打たせる。
いつもみたいに暖かいお日様のようなチャランポランとしたシリウスとは、到底かけ離れた凍てついた氷のような雰囲気だ。
いつものように反発した声をあげたいのに言葉は上手く出て来ず喉元にグッととどまってしまう。
「ううーん、じゃあ質問を変えよう。この後誰に会いにいくんだ?」
(なんなのよ。私が誰と会おうと殿下には関係ないじゃない)
キッと負けじとルティーナはシリウスを睨みつけるがニコニコと笑顔で返されるだけだった。
ルティーナは我慢できずに思いっきり本を振りかざしたがシリウスに容易く手首を握られてしまった。
ルティーナはグッと力を入れて引いてみたが動かすことも抵抗することすら出来ず力の差を感じさせられた。
「あはは、相変わらずルティーナは手が素早いね。もう少し反応が遅かったらまたいつもみたいになるところだったよ」
(こんの大嘘つき。私が手を振りかざす前に気づいていたじゃない。それにこんな所で油売ってる場合じゃないのよ、今何時なのかしら)
チラッと柱時計を見ると秒針は15時30分分を指していた。
もうすぐ約束した16時になってしまう。急いで馬車に乗らなければバンバーゼ公爵家に間に合いそうにない。
このまま行きたくもないお茶会を無視してもいいが、沽券に関わることだし何よりルティーナとしてもほんのちょっぴり楽しみだったりもする。
はじめてのお茶会に参加なのだ。令嬢らしいことが出来るのが嬉しかったりもする。
「……仕方ありません。殿下がそこまで仰るのなら私も腹を括るしかありません」
「うんうん、さすがルティーナ。やっと俺の淋しさを分かってくれたんだね。それで誰に会いに行くんだい?」
「それは……」
「それは?」
「秘密です!」
ルティーナはカッと目を見開いてもう片方の空いた手を思いっきりシリウスの頬を目掛けて振りかざした。
パチンっと良い音を鳴らして虚をつかれたシリウスを隙にルティーナは颯爽と図書館から飛び出して行った。
「や、やられたなぁ……。いやぁまさか本じゃなく手が飛んでくるとは思いもしなかったな。あー、痛い。ルティーナにはきっと嫌われちゃっただろうなー」
赤く腫れたジンジンと虫歯のように痛む頬をさすってシリウスはポツリと呟いた。
まさかあのルティーナがこうまでして強硬手段に打って出るとは思いもしなかった。
このままルティーナのことを追いかけるべきか、今ならまだ間に合うかも知れない。
が、これ以上安易に踏み込めば本気で嫌われることだろう。
どうしたものかなぁとシリウスは視線を巡らせたらふと目の端にあるモノが見えた。
「ーーいらっしゃいルティーナさん」
「ご、ごめんなさい。遅れてしまって」
「あらあら、そんなの構いませんわ。ほらどうぞお席についてください」
バンバーゼ公爵家へ到着したのは16時05分頃だった。
傘を取りに行こうとして戻ったのが遅刻の原因となってしまった。
けれどルティーナは傘を取りに行くのをやめた、何故なら戻ればシリウスと鉢合わせになると思ったから。
ルティーナはお礼を述べて席へとついた。辺りを見やると色とりどりの花に囲まれた庭園でのお茶会だった。
「今日は無理をいってお越しくださってどうもありがとう。改めてわたしはアマンダ・バンバーゼ宜しくねルティーナさん」
アマンダはふわっと花が咲くような可憐な笑みを浮かべた。
背に咲き乱れた彩った花が絵になってまるでアマンダは花の妖精のようにすら見えてくる。
「アマンダさんこちらこそありがとうございます。わざわざ私みたいな者をお誘い頂いて。本日のお茶会楽しみにしておりました」
「あら? わたしもよ。実はねローラから色々とルティーナさんの事を聞いていたの」
「私のことを? ローラからですか?」
「ええ。何でもルティーナさんは博識で根っからの本好きな子だとか、素敵ですわ。わたしなんて日中晩お茶会や舞踏会に淑女としてのお稽古と忙しい日々です」
「そんなことありませんよ。アマンダさんの努力はちゃんと目に見えて出ていますから。私のは見せることも何も出来ませんから」
お茶会ってこうゆうものなんだなとルティーナは身に沁みて分かった気がした。
相手を持ち上げるような物言いをしながらも結局のところ自分こそが立派で偉いのだと言いたいようだ。
本の中でのお茶会は美味しいお菓子に香りの良い紅茶と楽しく談笑するようなものだとばかりルティーナは思っていた。
「そうかしら? ルティーナさんが身に纏っているドレスも美しいですわよ」
「あ、ごめんなさい。ドレスで思い出しましたがもう一着持ってくるのを忘れてしまいました」
シリウスと揉めていたせいもあってルティーナはドレスの事をころっと忘れてしまっていた。
すみませんと肩を落としていたらアマンダは聖女のように優しく微笑みかけた。
「気にしないで、ただルティーナさんはどんなドレスをお持ちなのか見たかっただけだから」
「え? 見たかった? 何故ですか?」
「何故ってその気味の悪い黒い髪に朱い瞳なんですもの。喪服のようなお洋服をお持ちなのかしらと思っただけですわ」
クスクスと笑いながらそう言ったアマンダにルティーナはびっくりして目を瞬いた。
良くもまあそんなにもスラスラと皮肉が出てくるものだと。
アマンダの横に座るローラや他の令嬢らも釣られて同じように嘲笑し出した。
つまり、ルティーナがお茶会へお呼ばれした本当の理由は笑いものにして馬鹿にしたかったということだ。
(あー、鬱陶しいな。この人達は私がそんな幼稚な言葉で傷つくとでも思っているの? 馬鹿にされたものね)
「ふふ、アマンダ様ったらいくら私の友人だからってそんな言い方しては可哀想ですよ」
「そうね、ごめんなさいねルティーナさん。わたし正直者でなんでも口にしてしまうの、だから泣かないで」
アマンダの気に入らない態度にルティーナはギュッとワンピースを握って自分の思いを噛み殺した。
ルティーナとしてもこんな所で情けない姿を見せたくないし、変な噂が立つのも困る。
居心地の悪い空気から出ようとした時、突然誰かがルティーナの肩をそっと抱き寄せてテーブルの上にドンっと手が置かれた。
「ーーまったく、ルティーナはもう少し正直者になって欲しいな」
「で、殿下……! どうしてこちらにおられるのですか?」
「どうしてってルティーナが図書館に傘を忘れていたからこうして届けにきたんだけど? まあ、雨は降りそうにないけどね」
くすりと悪戯っぽく笑うシリウスにルティーナはほんのちょっぴりだけ安心した。
「し、シリウス殿下、そのわたし先日舞踏会でお会いしたアマンダです。覚えていらっしゃいますでしょうか?」
淑女らしくない仕草でアマンダは椅子から立ち上がりシリウスの手を無造作に握りしめた。
けれどシリウスは眉をひそめてその手をバッと振り払い、無表情になって淡々とこう言った。
「アマンダさんだっけ? 悪いね、気安く俺に触れないでくれないか? あなたのそのギラギラと宝石をつけた気味の悪い手なんて触れたくもないよ」
「え……」
「後その趣味の悪い柄いっぱいのドレスもやめた方がいい。見ていて目がチカチカするし、目障りだ」
アマンダは信じられないと首をふるふる振って視線はあちこちに飛び交った。
そして我慢出来ないと言わんばかりにズイッとルティーナを指差して叫び出した。
「あああ、貴女がいけないのよ! シリウス殿下はこんな冷たいお方じゃなかったわ! もっと朗らかに笑って優しくて紳士的で……それからっ!!」
「それからなんですか?」
「元はと言えばルティーナさんのその不気味な容姿が原因ですっ!! 普通の人と違うその気持ち悪い見た目がシリウス殿下を毒づかせていったのですわ」
「へぇー、つまりアマンダさんは私が殿下に影響を与えたと仰るのですか?」
「そうよ!! じゃなきゃシリウス殿下がこんな可笑しい人になるはずがないわ」
「あらら、言っちゃいけない事までアマンダさんは口にしちゃいましたね。今の言葉は殿下への侮辱罪で処罰されると思います。後、もうその甲高い声耳障りです」
ルティーナはカップをひょいっと持ち上げてアマンダの顔目掛けて紅茶をビシャっとぶち撒けた。
自分の侮辱だけならまだしもシリウスの事まで悪く言われたのが我慢出来なかった。
ルティーナの突然の行動にローラや他の令嬢達は悲鳴を上げて叫び散らす。
「ふん、熱湯をかけてやらなかっただけ有り難く思ってほしいわね」
「あっははは! ルティーナは相変わらず手加減ないなー」
「当たり前です、何せ殿下を侮辱したのですから。さぁ、殿下もうこんな所はお暇しましょう」
「ああ、そうだね。それじゃあご令嬢の諸君後片付け宜しく〜」
お茶会の場を後にしたルティーナはシリウスが乗ってきた馬車へと乗り込んだ。
本当は歩いて帰ろうと思っていたルティーナだったが、シリウスから一緒に乗って帰ろうと提案されてそれに頷いた。
馬車は静かに動き出した。シリウスと二人だからかルティーナは安心した様子でホッと肩の荷を降ろした。
「あ、あの通り過ぎましたよ? 戻るんじゃないんですか?」
「ん? いや戻らないよ。まずは仕立て屋さんに行こうと思ってね」
「は? し、仕立て屋さん?」
「ほらそのワンピースの端に少し紅茶の汚れが染み付いているだろう? 新しいお洋服に着替えてこれから俺とデートしようか?」
「い、いや結構です! というか行く理由ないじゃないですか?」
「理由ならあるよ」
シリウスは立ち上がってわざわざルティーナの横へと腰を下ろしてふわっと優しく微笑みかけられた。
急な距離の近さにルティーナはドキドキとしながら戸惑った声で尋ねた。
「理由ってなんですか……?」
「いや、ここで言うのもなんだかなー。うん、まずは可愛いお洋服にルティーナが着替えてからだね」
「は、はぁ……?」
シリウスの考えがちっとも何も分からないルティーナは首を傾げた。
だが、シリウスは教えてくれそうになくて結局答えを見つけ出せそうになかった。
しばらくして、仕立て屋へ到着したルティーナは目の前に映る光景にわくわくと胸を高鳴らせていた。
暖色から寒色へとグラデーションに並び揃えられた可愛らしいドレスはどれもが芸術品のように美しく目を惹かれるものばかり。
展示品として壁に掛けられたドレスには幾つもの宝石が星屑のように散りばめられキラキラと輝いていて目で見ているだけでも充分楽しめそうだ。
店内を楽しく見歩いていたルティーナはシリウスと店員の話を聞いて血相を変えてすぐに駆け寄った。
「それじゃあここからここまで貰おうかな。あー後、イヤリングにネックレスにヒールと髪飾りとそれからーー」
「で、殿下何をしているんですか!」
「え? 何ってルティーナへプレゼントしようと思ってさ」
「駄目ですよっ! そんな高価な物受け取れません! なので今すぐ断って……」
「もう手遅れだよ? 全部買っちゃったから。さぁルティーナ、ドレスに着替えておいで」
「え、ちょっと! 殿下まだお話が終わっていません」
シリウスの陰謀に抗えなかったルティーナはプレゼントして貰ったドレスを着て馬車の中で不貞腐れていた。
身にまとっているのは水色のイヴニングドレスで絹タフタを使用した生地は肌触りが良く、金糸できめ細かく施された花柄の刺繍に繊細なレース。
ドレスのほかに、首元と耳にはルティーナと同じ朱色をしたルビーのネックレスとイヤリングが煌めいていた。
「ルティーナさん? あのお願いだから俺のこと無視しないで。俺死んじゃう、無理つらい……泣いちゃうよ」
「……」
「うぅ、俺の可愛い可愛いルティーナがまたしても非行に走るなんて! これ以上は俺の精神が耐えられない……ルティーナお願いだからこっちを向いてよ」
「………何も聞こえません」
「そんな悲しいこと言わないでよー。ルティーナがその気ならこっちも行動するまでだ」
「な、ななな……何するんですか! 離してくださいっ!」
シリウスは両手でルティーナの頬を挟み込む強硬手段に打って出た。
目が離せずルティーナは、かぁっと頬が熱くなっていった。
シリウスの顔は心臓に悪い。くっきりと整った目鼻立ちに透明感のある澄んだ海のようなブルーの瞳、髪はサラサラな金色をしていて見るからに王子様といった風貌だ。
その美しい見た目に反して青年っぽい崩れた口調や態度がより一層魅力を引き出している。
「嫌だ。だって手を離したらルティーナが俺を見てくれないだろう? ならずっと、いや。一生このままでも構わない」
「変なこと言ってないで手を退けてください!」
「絶対に嫌だね。ルティーナが俺のことを見てくれるなら手を離してもいいけど」
「はぁ、わかりました……。せっかくこんな素敵なドレスをたくさん頂いたことですし」
「ありがとうルティーナ! じゃあ、さっそくだけどまずは夕食を食べに行こうか?」
シリウスに連れられるままルティーナはびっくりするぐらい美味しいレストランへ行き、食後のデザートにとケーキ屋さんにも向かった。
ケーキ屋さんを後にしたルティーナとシリウスは馬車でベアトリーチェ王国へと到着して慣れしたんだ図書館へ戻ってきた。
「それにしても美味しかったなぁー。ルティーナまた今度あのケーキ屋さんに行こうか? そして次は公園とかでデートしよう」
「美味しかったですが、次はお断りします。行くなら殿下一人で行ってください」
「ええー、そんな酷いこと言わないでよ。ああ、それとルティーナもう少しだけ俺に付き合ってくれない?」
「まだ何処かに行かれるおつもりですか?」
「うん、といってもすぐそこだからさ。ほらルティーナこっちこっち!」
「こっちってそこは外じゃありませんか?」
シリウスに手を引かれてルティーナはバルコニーに出た。
ふわりと冷たい夜風が首筋をふき通ってルティーナの黒い髪がなびいた。
目の前に広がったのは藍色の雲ひとつない夜空に星が幾つも輝き、街ではオレンジ色をした灯がぽわんと優しい光でその幻想的な光景にルティーナはゆっくりと目を瞬いた。
「ルティーナに話があるんだ」
「話ですか?」
「ルティーナ、俺と婚約してくれますか?」
シリウスは騎士のように片膝を地について片手でルティーナの手の甲へキスを落とした。
「け、結婚……ですか?」
「ああ、俺はルティーナのことを愛している」
「いや、えっと……どうして私なんですか?」
「ん? そんなの決まってるじゃないか? 俺がルティーナのことが心から大好きだからだよ。ああ、あとね、勿論拒否権はないから」
サラッと笑顔で鬼畜っぷりなことを言ったシリウスにルティーナは目を大きく見開いた。
どうやらこの結婚は拒否権がないらしい……いやいや、おかしい! どう考えても無理強いすぎる。
ルティーナは負けるものか、と悪戯っぽく笑ってこう言った。
「ーー私は悪名高い魔女ですので。断らせて頂きます」
「ええ!? う、嘘じゃないよね?」
「ふふ。嘘です」
「それじゃあ俺と結婚……」
「結婚はまだ気持ち的に追いつかないので、その、恋人(仮)でしたら構いませんよ」
「ルティーナ!! 本当に君はいつも俺を翻弄させてくれるね、愛しているよ」
「……わ、私も愛しています。シリウス殿下」
こうして図書館の魔女には愛する恋人が出来ましたーー。
* * *
「そういえばルティーナに聞きたいことがあったんだ」
「なんですか?」
「大量の変な手紙は知っているかい?」
「も、もしかして見られたのですか……!?」
まずいとルティーナは背に冷や汗をかき始めた。
もしも本当にシリウスの目に触れてしまったのなら大問題だからだ。
「読んだよ、犯人を突き止めて刑罰しなくちゃいけない、何せ俺のルティーナへあんな言葉を送ったんだ簡単に許せないよ」
「あああの……あの手紙私が書きました」
ルティーナは居た堪れない思いで挙手をした。
シリウスは目をパチパチとさせて、嘘だよね? と動揺した。
「私がその、シリウス殿下へして来た無礼な数々を書いて自分で罪を償うつもりでした……」
そう、あの赤で書かれた文字らは全てルティーナの自作自演だ、決して第三者の介入はない。
自分のシリウスに対する態度がルティーナは申し訳なくて素直になれない自分が嫌で、あれやこれよと書き連ねていたってわけだ。
「つ、つまりルティーナは自分で自分を責めてたの?」
「そ、そうですよ……だって殿下を殴るなんて死刑になるぐらいじゃないですか! それをやってしまったのも私ですし……」
「あっははは! ルティーナは突拍子もない行動をするね。本当に面白くて目が離せないな、なら償うつもりで毎日ハグをしようか?」
「は? それとこれとは別ですが?」
今日も今日とてルティーナの塩対応は増していくーー。