パル君番外編3 僕は絵日記はかかないよ その1
嘉永に生まれた彦衛門さんと
安政に生まれたマサさんは
明治時代に薩摩から上京いたしました。
子沢山の末子として生まれた悦(後、絵都と改名)さんの
再婚での末子は朝子さん。
朝子さんは戦後結婚し
夫の仕事の都合で京都に転居しました。
朝子さんの娘、綾子さんは
学生時代に東京に戻ってきました。
綾子さんは
マルの取り持つ縁で
捺美さんと結婚しました。
捺美さんと綾子さんの
一人っ子の摩奈さんは
敦さん(あっ君)と結婚する時に
パル君を嫁入り(道具ではなく)犬として連れて行きました。
二人の間には
虹ちゃんと杏ちゃんが生まれました。
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この延々と続いている小説はここ、「小説家になろう」で 2010年の 「第一話 セミテリオの烏」
から、始まりました。 この第一話で 摩奈さんは生まれたのです。
1年ぶりのパル君 再登場です。周囲は少し成長しています。虹ちゃんは小学校1年生になりました。
ちょっとお熱があって、ぐずっていた杏ちゃんに寄り添って寝かしつけてから、僕はお家を抜け出した。杏ちゃんには摩奈さんってママが側にいるし、僕がいなくなったって、摩奈さんには元々僕が見えないし。
あっ、僕が誰だって? 初めて僕のお話を読む人にはわからないもんね。僕は、マルチーズ。電車に乗ってこの世界に来て、たぶん、魔法使いになったんだ。
さぁ、今日はどこに行こう。あれっ、僕が言っちゃった。あっちの世界で食べて飲んで4本の足でしっかり歩いていた頃の僕を散歩させていたパパ、あっ君の口癖。あの頃、あっ君は、摩奈さんに、休みの日ぐらいは散歩してきてね、とリードを 付けた僕を持たされて、お玄関から追い出されていたんだっけ。で、僕に尋ねていた。さぁ、今日はどこに行こう、ってね。尋ねるから、僕はあっち行こう、こっち行こうってリードを引っ張っても、あっ君が応えてくれたことはなかったけどさ。
で、今、食べず、飲まず、4本足で歩かなくてよくて、行きたい所にはほとんどどこにでも行けるようになって、僕は、言っちゃった。さぁ、今日はどこに行こう。
最初の頃は面白かったリーフストアもまるしゅんも、最近新しくできた菜の花タウンも、面白くないんだもん。こっちの世界に来てもう長いから、食べられないのには慣れたけれど。いいにおいだけでも、いいんだけれど。やっぱり少しは残念に思っちゃうわけで。
幼稚園は、僕を見える子が追いかけてくるから、ほんのちょびっと苦手だし。そうそう、最近僕がハマっているのは、小学校なんだけど、だって、僕が見える子ってほとんどいないもんね。つまり、追いかけられないし、どこにでも入れるってわけ。今日は、小学校に行こうかな。
あれ? 杏ちゃんのお休みの連絡、ママは幼稚園にしてたっけ? お家を出てくる時に、虹ちゃんのランドセル、あったような? あれっ? 今日もお休み? そういえば、あっ君がどこかに行くって出ていったっけ? その時、虹ちゃんも一緒だったような? ってことは学校に行っても誰もいない? あああ、元に戻っちゃう。さぁ、今日はどこに行こう。
僕は両腕を羽根の様に広げてばたつかせて、なんて嘘だからね。カラスのオレさんじゃないんだもの。あっ、そういえばオレさん、最近姿を見せない。きっとおてんちゃんのところにいるんだろうな。で、さかさかさのお爺さんに追い払われているのかな。 あっ、僕の飛び方? どうしてるかって? ぴょんぴょん跳んで行けるんだ、うふっ、これも嘘。最初は、ぴょんぴょんで跳んだりばたばたで飛べるのかと、僕だって思っていたけれど、風船みたいな感じ? ふんわりふうわり飛べるんだ。今は、もう僕のママと同じくらいふんわりふわふわ。で、幼稚園に行く途中の公園まで来た。まだあっちの世界にいて、飲んだり食べたりしてた頃には、入れなかった公園。魔法使いになってからは、虹ちゃんとも杏ちゃんが幼稚園に行く時にも一緒に入るんだけどね。そうだっ、コッコちゃんとピコちゃんをからかおうかな、なんて意地悪な心は持っちゃいけないんだ。でも、遊びに行った。相変わらず、というか、もう慣れちゃって、僕には関心を示してくれない。チラッと見てはくれるだけ。地面の餌探しで下ばかりツンツン。僕は幼稚園までふんわりふうわり飛んでいった。
幼稚園の虹色の門は閉まっていた。やっぱり今日は学校もお休みなんだよね。そうだっ。僕が怖くて震えていた時に、ふわふわの中に隠してくれたウサギさんたちに挨拶しよう、と思ったのに、ウサギさんたちはもうお家の中で眠っていて、起きてくれなかった。つまんない。久しぶりに滑り台で遊ぼうと思って、公園に戻った。
お休みだと、パパやママとお出かけする子が多いのかな。小さいこどもやそのママさん達は誰もいなかった。そうか、僕はほとんど暑さや寒さを感じなくなったけど、夏は暑いんだっけ。日陰のベンチで本を読んでいるお爺さんがコッコちゃん達みたいにチラッと僕の方を見たけど、気のせいかな、って思ったみたいで、また目を本に戻した。木陰の別のベンチでは摩奈さんより年上のおばさん達が、おしゃべりしていたし、その近くではゲームの機械を手にして変な音を出している大きいお兄さんたちが3人しゃがみこんでいた。滑り台には誰もいなかったので、僕は滑り台に向かった。初めてこの滑り台に上った時は、大変だったっけ。あの頃は、ほんの少し跳ぶのがやっとで、今みたいには飛べなかったし。なんて思い出しながら、何度か上まで飛んで、下まで滑ってを繰り返していたら、
「パ〜ル〜君!」と後ろから声がした。
あと4回続きます。
楽天ブログに同じ文章がありますが、私の別サイトです。